これがソフトバンクの数字のカラクリ、本当にドコモやauよりもLTEで優位なのか



新機種発表会や決算発表会などで、数字やグラフを用いて他社より優位であることを殊更に主張するソフトバンク。

しかしながら同社が用いる比較を見ていると、疑問に感じざるを得ない部分があるため、実際のところはどうなのかを考えてみました。



◆「LTEがKDDIよりも優れている」とひたすらアピールするソフトバンク
ソフトバンクが各種発表会で特に力を入れているのが、KDDIのLTEとの比較。「iPhone 5」の発表会から事あるごとに比較を行い続け、KDDIよりも優位であることをアピールしています。

これは先日行われた決算発表会などで公開されたスライド。「JRの乗降客数トップ1000駅」という基準で調査するとKDDIよりもiPhone 5でLTE接続が可能な駅が多く、よってソフトバンクのエリアは広い……という内容です。


また、イー・モバイルを展開するイー・アクセスの買収で1.7GHz帯のLTEを合わせた3万局を利用できるようになり、今後さらにKDDIよりも優位になるということをしきりに訴えています。


◆LTEサービス全体を見渡して比較するとどうなのか
上記の資料を見ていると、まるでLTEサービスはソフトバンクしか選んではいけないかのようにすら思えてきますが、忘れてはいけないのが、あくまでこれはiPhone 5向けLTEサービスでの比較でしかないという点。

2012年11月時点で携帯電話3社のLTEサービスが対応している周波数帯は以下。LTEサービス全体を見渡して考えた場合、iPhone 5が対応している2.1GHz帯のみでLTEサービスを展開しているソフトバンクよりも、基地局1台あたりのカバーエリアが広く、建物の中でも通じるプラチナバンド(800MHz帯)や1.5GHz帯でも展開しているNTTドコモやKDDIの方がつながりやすいということに。

NTTドコモ:800MHz、1.5GHz、2.1GHz
KDDI:800MHz、1.5GHz、2.1GHz
ソフトバンクモバイル:2.1GHz


ちなみにソフトバンクは今年7月まで「つながりにくいのはプラチナバンドが割り当てられていないから」としていましたが、同社のLTEは、まさにそのつながりにくい原因と主張し続けてきた2.1GHz帯のみの展開であるわけです。

さらにiPhone 5に限定して比較した場合でも、同じ2.1GHz帯のLTEしか利用できないKDDI版と異なり、それを補うためのプラチナバンドを用いた3Gの整備が終わっていないということも忘れてはいけません。

◆次世代高速通信が一番つながりにくいのはソフトバンク
また、iPhone 5の周波数対応状況もあって、携帯電話各社は2012年冬モデルが採用する次世代高速通信サービスに、プラットフォームごとに周波数帯や通信方式のすみ分けを導入しており、回線の混雑を分散できるようにしていますが、現状をまとめると以下のようになります。

・NTTドコモ
Android:800MHz、1.5GHz、2.1GHz(LTE)

・KDDI
Android:800MHz、1.5GHz(LTE)
iPhone 5:2.1GHz(LTE)

・ソフトバンク
Android:2.5GHz(AXGP)
iPhone 5:2.1GHz(LTE)


ここで気になるのがソフトバンクの次世代高速通信サービス。LTEが2.1GHz帯のみでの展開であることに加えて、新たにAndroidスマートフォンで採用されることとなった「Softbank 4G(AXGP)」は「UQ WiMAX」同様、2.1GHz帯よりもさらに建物の中などに弱い2.5GHz帯のみでの展開となります。

つまりNTTドコモやKDDIのAndroidスマートフォンはつながりやすいプラチナバンドのLTEを利用できるのに対して、ソフトバンクはAndroidでもiPhoneでも次世代高速通信がつながりにくいということになるわけです。

◆数字やグラフを使った「分かりやすい比較」の裏にあるもの
LTEの例にとどまらず、ソフトバンクは発表会などで「数字」や「グラフ」を用いる形で他社との比較を好んで行っていますが、中にはどうかと思われるものが少なからずあります。

・ある時は合算、ある時は除外
7月末に行われた決算発表会など、事あるごとにウィルコムの契約者を合算してauに迫ることをアピールしていましたが……


ARPU(加入者1人あたりの月額平均売上額)ではウィルコムを除外した数字で比較。これは10月末に行われた決算発表会でも同じです。


「あくまで別会社だから除外した」という理屈は分かりますが、ウィルコムは2台目・3台目の月額基本使用料を無料にしただけでなく、1台目すらも基本使用料無料で提供するキャンペーンを展開するなど、ARPU度外視で契約数を稼ぐ、いわばソフトバンクグループのブースター的な役割を担っています。


ウィルコムのARPUは2010年から非公開であるものの、このような売り方をしている以上、決してソフトバンクモバイルほど高くないのは想像に難くなく、都合のいい時だけ合算し、都合が悪い時は「別会社」として除外する姿勢はどうなのか……という気持ちにならざるを得ません。

・もはや意味をなさなくなってきた「純増数」
また、携帯電話各社は「純増数」を競争力を示す指標として用いてきましたが、ソフトバンクは傘下のウィルコムやワイヤレスシティプランニングの回線と自社の3G回線を組み合わせて提供することで、「DIGNO DUAL WX04K」および「Softbank 4G(AXGP)」対応のスマートフォンやモバイルルーターを契約したユーザー1人につき、グループ全体で2純増できる環境を構築。

さらにソフトバンクは買収したイー・モバイルのLTE回線をソフトバンクユーザーが利用できるようにすることを表明しているため、主力のiPhoneでも「1台契約するとソフトバンク、イー・モバイルの両方で1純増扱い」という環境を実現できる可能性まで浮上しています。


ちなみにこの仕組みを使えば、仮に「音声部分はPHS、イー・モバイルとソフトバンクの3G(DC-HSDPA)、さらにワイヤレスシティプランニングのAXGPに対応したスマートフォン」を発売すれば、1契約で4純増カウントすら可能となるため、純増数自体がもはや意味をなさなくなってきたわけです。

・利用できる端末が1年間発売されなかった「業界最速、下り最大110Mbps」
ほかにも2011年9月に行われた新製品発表会において、下り最大110Mbpsの「Softbank 4G」を発表して以来、ソフトバンクは事あるごとに他社との通信速度を数字で比較してきました。

これがそのグラフ。NTTドコモが2010年12月から展開しているLTEサービス「Xi」は下り最大75Mbps対応スポットがごくわずかであるからという理由で37.5Mbpsと表記されており、「UQ WiMAX」などと合わせて比較しても「Softbank 4G(グラフ中では4G LTEと誤記)」が圧倒的であるという内容です。


「下り最大110Mbps」という数字が現時点で業界最速のものであることに間違いはありませんが、しかし肝心の対応端末「ULTRA Wi-Fi 4G 102HW」が発表されたのは「Softbank 4G」発表から8ヶ月が経過した2012年5月。しかも実際に難解なキャンペーンと共に発売にこぎつけたのは、さらに5ヶ月が経過した10月19日で、2012年冬モデル第1弾よりも後に登場しています。

つまりソフトバンクは実際には利用できる端末すら発売されていない「下り最大110Mbps」という数字を丸1年にわたって掲げ続け、他社を牽制してきたことになるわけです。

・11月16日追記
本日NTTドコモがXiを2013年春に下り最大112.5Mbpsに増速することを正式発表。展開はごく一部のエリアに限られますが、ソフトバンクが掲げ続けた「国内最速」の看板はサービス開始からわずか数ヶ月で覆されることに。

国内最速となる下り最大112.5MbpsのXiをNTTドコモが開始へ、「Xiフェムトセル」でエリア拡大も | BUZZAP!(バザップ!)

◆独自の尺度を用いた他社との比較をソフトバンクが行う理由は?
このように数字やグラフの分かりやすさをフル活用して自社の優位性を主張してきたソフトバンク。

しかし同社が用いる他社との比較には、あえてiPhone 5に限定したLTE比較や、傘下の会社をある時は除外、ある時は組み込むような形での数字の比較……といった「独自の尺度」によるものが含まれていることに注意を払う必要があります。

なお、このように独自の尺度を用いた他社との比較をソフトバンクが行う理由ですが、自分が優位であることを主張するためであることはもちろん、仮に他社が反論しようとした場合、自分の土俵に引きこみ、論争を優位に進めることができるためであるとも考えられます。

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