【印度通信 Vol.26】「Mother Baby School」スタッフに聞いたスクールとインドの現在と未来




長らく都合により更新できていなかった「印度通信」。これより再開いたします。見た目の強烈なインパクトに惑わされそうになるインドの風景、でも外から見ただけでは見えてこない内情ももちろんたくさんあります。

【印度通信 Vol.25】高橋歩がインドにつくった学校「Mother Baby School」でボランティアをしてきました BUZZAP!(バザップ!)

前回ボランティアとして訪れた高橋歩の作ったフリースクール「Mother Baby School」。ここで現地駐在スタッフとして活動されている林寛与さんにスクールの現状と方向性、さらには学校の長期駐在員としての立場から見えるインドの現状とこれからについてお話を伺いました。


■ボランティアについて

BUZZAP!編集部(以下B):
まず、Mother Baby Schoolのボランティアについてお伺いしたいのですが、ボランティアの受入状況はどうなっていますか?基本的に日本人なのでしょうか?

Mother Baby Schoolスタッフ林寛与さん(以下M):
受け入れるボランティアの国籍は問いません。でも大体は日本人です。日本からオン・ザ・ロードのHPで知って、HP上の申し込みフォームを通して来るケースの他、ヴァラナシのレストランやゲストハウスの日本語のポスターを見た日本人から連絡が来たり、「地球の歩き方」に載っているのでそこから来たりすることも多いです。後はヴァラナシで会った外国人が行ってみたいということで来ることもあります。

B:
ボランティアとして、どんなことができる人を求めていますか?

M:
どちらかというと、ここでの体験を日本に持ち帰って、いろんな人と共有して欲しいです。だから、何もできないから行きにくいなどとは思わずに、子供たちと接してもらって、こういう勉強をしているんだと知ってもらいたい。

日本側からHPなどを見ただけでは分からない部分はたくさんあります。来て体験してみて分かることを持ち帰って広めてもらいたいと思います。そして、自分のいる場所で何かできることがあるかと考えるきっかけにしてほしいです。

それは単にMother Baby Schoolのためにという訳ではなく、来た人が人生の岐路で悩んでいた時に、やりたいことを周りの目を気にせずにやった方がいいと自分は思うので、こちらも協力できたらという気持ちもあります。

後は子供たちの見聞を広められるようなことを教えられるような人なら面白いですね。インド以外のことは全然知らなかったりするので。


B:
今、インドは経済発展のイメージで語られるので、インドの子供も「みんながテレビなどでボリウッド映画を見て、ボリウッドスターに憧れている」ようなイメージを持ったりもしていたけれどMother Baby Schoolの子供たちはそうではありませんでした。

日本では、みんなテレビを見ていて、アイドルグループも知っていて、みんなと一緒で当たり前という気になるけれど、インドでは生活レベルやカーストなどの格差から違いがあるのかなと感じますが、いかがでしょうか?

M:
カーストは廃止されたけれど根強く残っているのは感じます。そして(Mother Baby Schoolのある)ガンジス川の対岸は、富裕層もいるけれど貧困層も多いです。昔はガンジス川のラームナガル城付近の川沿いにはテントの家が並んでいて、物乞いしながら過ごしている子供も大勢いました。今も経済が発展していると言われているけれど、カーストの低い人の生活はそのままです。

親の家業を継ぐのが生まれ持って当たり前で、何の疑問も持たずに自分はこうなるという体で過ごしている子供が大勢います。

なので富裕層の子どもはいい学校に行けて良い教育を提供している学校に通え、流暢な英語も喋れるようになります。そういう家にも何でも揃っていて、テレビも見ていて携帯もPCもあります。

一方、Mother Baby Schoolの子供たちでは、テレビがない家庭もあるし、すごく狭い家で家族8人とかで住んでいる家もあります。日本の子供はテレビの話やゲームの話も多いけれど、スクールの子供は全然テレビやゲームの話も全然しないし、アイドルの話もあまりしない。誰かがサルマン・カーンを知っているくらいです。

B:
先日子供たちと話した時に映画の話が出るかなと思っていましたが、全然出なかったので不思議に思っていました。

M:
ドラえもんやハットリくんはインドでもやっているので聞くと知っているのですが、「昨日のドラえもんさ…」みたいな話はまったくしないんです。それよりも、外で遊んでいることの方が多いです。停電時はテレビも見れないので、やっていても見れる日が限られてもいるからかもしれません。

■インドでも最近始まった「義務教育」とは?

B:
インドでは最近義務教育が施行されたと聞きましたが、日本のものとは違うのでしょうか?

M:
日本では「子供に教育を受けさせる」ことが義務ですが、インドでは州が「教育を提供する」ことが義務なんです。受ける受けない、通う通わないを決めるのは個人や家庭の裁量で義務ではありません。だからお金がなくて行かせられないということも起こります。

公立の学校でも制服や教材は自前で揃えなければいけないためお金がかかり、払えなければ通えないということになります。特に子供が家業を手伝って収入の元になる家は子供にも働かせるし、学校に行かせてお金を払うのは無駄だということになると、学校に行かずに働かせるという結論になります。

だから自分も学生時代に多少ありましたが、「学校に行きたくない」というのはすごく贅沢だなと思います。Mother Baby Schoolの子たちを見ていたら学校が大好きでしょうがないという感じなので。そこは反省ですね。

B:
それもこういう環境に自分で触れてみないと分かりませんね。公立でも払えないような家の子供達にもMother Baby Schoolであれば無料で教材なども提供して勉強ができるようにしているんですね?

M:
そうですね。まだ制服は配れないんですけれど、鉛筆、消しゴム、ノートなどの必要最低限の教材は配っています。

■Mother Baby Schoolの次のステップ

B:
もう既にMother Baby Schoolを卒業した子どもはいるのでしょうか?

M:
Mother Baby Schoolは認可されていないので、卒業証明書があげられないというのが現状です。現在は認可校、さらには私立化のための申請準備をしている状態です。卒業後の進学と就業に有利なのは私立なので、私立化を目指しています。

次の7月の新学期に合わせて私立化を考えていますが、すごくお金がかかります。EXILEのUSAさんが制服を作ってくださっているのですが、現在はパンツしかなくて女の子のスカートも揃えなければならず、靴と鞄を揃える必要もあります。

そして今は幼児、低学年、高学年の編成なのですが、もっと細分化したクラスが必要です。初等教育前教育の子、前期初等教育の子、後期初等教育の子、さらにはもっと下の幼稚園世代の子で細分化しなければなりません。



まずは今の1階の教室を4分割するための工事をして、2階の部屋も教室にしたり、給食を提供するためにキッチンも作り変えて給食室にしなければなりません。子供向けのトイレの設置も必要だし、職員室も作らなければならないなど、学校の形をガラッと変える必要があります。そのために日本のNPOとしての助成金を申請したり、マイクロファンディングサイトで募金を募っている状態です。

なので、Mother Baby Schoolの卒業生はまだいません。うちのレベルを卒業できたかなという子は、次のレベルの学校に自分たちで行ったり行かなかったりというのが現状です。
B:
Mother Baby Schoolに対してインド政府やウッタル・プラデーシュ州からの援助はありますか?

M:
ありません。インドには学校の種類が3つあって、ひとつは公立。私立は学校だけで運営する私立と国から補助が出る私立のふたつがあります。国から補助が出る私立で申請が通れば、まだ少しは助かります。インド人のパートナーと申請するのですが、運営に外国人が関わっていると出せないと言われる可能性もあり、そこがまだ不確定です。

州からでもヘルプがあるといいんですが、学校も多いのでなかなか回ってきません。後は日本人からのドネーションや、日本のお店などに置いてもらっている募金箱、それに子供たちの作っているカレンダーやアクセサリーなどのプロダクトのオンライン販売ですね。


B:
私立化にあたって人材も必要になってきそうですか?

M:
インド人教員の増加、これが一番ですね。現状でも最低3名増加しなければなりません。各クラスにひとり付いて教えてもらうことになります。今私が低学年を教えているのだけれど、それもなくなります。やっぱり低学年は基礎なので、細かいところまでの説明が難しく、例えば今私がいなくなって代わりのスタッフにやってもらうとしてもできないと思います。ヒンディー語が喋れないときついですね。

すごく深いところまで疑問を持った子供がいた時に、今は高学年のインド人教師に教えてもらうのでそちらが遅れるという悪循環もああります。本当にインド人の先生は必要不可欠です。幼児が2クラス、低学年が2クラス、高学年も1クラスに分かれるので少なくともそれをカバーできる数の教員が必要です。

そして私立化で卒業証書があげられるようになり、国から認可が降りたら確実に児童が増えます。そうなると学校の広さも足りません。生徒の増加を見ながら増築も必要になります。他の土地に増やすか、今ある建物の上に増築することになるか。

B:
そうなると日本人が来るというよりは、インド人を増やして回していかなければならないタイミングですね。

M:
それが当の子供たちにとっても一番いい教育になると思います。

■Mother Baby Schoolでの経験

B:
次に、ここに寛与さんが来始めたきっかけを教えていただけますか?最初の段階からいたのですか?

M:
私がここに来たのは2011年の1月末からです。本当にタイミングですね。もともとはMother Baby Schoolのことも知りませんでした。世界一周をしようとしていて、インドには興味があったので調べていたら、たまたまここの2年駐在員募集を発見しました。そして面白そうだなと思って応募してみたら運よく採用されました。

ここでの仕事が終わった後でも世界一周に出れるかなと思っています。さらにこれから1年滞在を延長するのでここには都合3年いることになりますね。

B:
その当時から今までで、学校で変化したことはありますか?

M:
授業体系が全然変わりました。以前はヒンディー語を全てインド人教員だけに教えてもらっていたんです。そして英語の時間からスタッフとボランティアが行っていました。なのでボランティアもスタッフも結構英語で英語や算数を教えていました。

でも、子供たちは分かったふりをするのが上手なので、蓋を開けてみたら全然理解していなかったということがありました。

ヒンディー語がペラペラの、インドで10年以上学校をやっている日本人女性がMother Baby Schoolに来たことがあって、すごくできる高学年の男の子を見てもらったことがあるんです。そうしたら、ヒンディー語でやり取りしたら「この子何も分かってないよ」って言われたことがありました。分数を教えていたのですが、数字の概念から全く分かっていないと。

それでインド人の先生も入れようということになって、幼児はこれまでのインド人の先生に診てもらおうということになりました。低学年は教員不足なので、スタッフががんばってヒンディー語を覚えて何とか教えています。

ボランティアからしたら低学年、高学年は入りにくいかもしれないので、1、2時間目は幼児を観てもらうことにしました。幼児なら結構遊びもあるので、一緒に遊びながら見てもらえるので。それで児童の理解度も増しました。


B:
こちらに来られてから苦労したことはありましたか?

M:
一番はヒンディー語ですね。それと子どもとどうやったら飽きずに楽しめて授業ができるかということです。もともと教員でもないし、子供に接する仕事をしていたわけではなかったので。同じ事ばかりやっていると飽きてしまうし、かといって違うことをやると忘れてしまいます。どれだけ楽しんで、なおかつ覚えられるかを考えるのは難しいです。

■インドの教育のこれからはどうなる?

B:
最後に、インドが発展してきている中で、これからインドの教育はどのようになっていきそうでしょうか?

M:
ヴァラナシで言うと、年々物価も上がっているし、外国人のお店も増えているので発展しているのは感じます。ここは聖地としての観光地なのでムンバイのようにはならないと思いますが。

インド自体はもっと経済成長していくと思いますが、貧困層との格差はもっと広がりそうだと感じています。貧困層が減るような、そういう施策が行われているようにはまだまだ見えてきません。10年、20年単位で見て行かなければならないでしょう。義務教育が「受けさせるのが義務」に変わらないと物乞いをしているような子供たちは学校に通えないままです。

インド自体でフリースクールは多くありません。外国人のNGOやNPOはありますが、インドの国自体がやっているフリースクールはあまりないのが現状です。そういう学校が増えたり、公立はお金が必要ないとなればいいのですが、なかなかそうはなっていません。


B:
寺院がが無料でご飯を提供するような、宗教が貧困層の受け皿になるようなことがインドではしばしば見られますが、それが教育と結びつくようなことはなさそうか?

M:
そういうところに通っている子もたくさんいると思います。大学などで低カーストの枠などもできていて、アウトカーストだから大学に入れないというわけではなくなっています。試験に通れば大学にも行けるし授業料が免除されたりもするようなこともあります。

ただ、その前の初等教育と大学教育を結びつけるような動きがまだしっかりしていません。今後は高校、中学、初等教育のようなところまでそうした施策降りてくるとは思いますが、まだまだ10年単位で時間が掛かるでしょう。今は各国のNGO、NPOがやっている状況です。

Mother Baby Schoolも今は初等教育だけですが、ゆくゆくは中等部、高等部から大学に進むサポートができるような形を作って、採算が取れる形でやって行きたいと考えています。

学校の近くでゲストハウスだけで建てようと考えていて、そこの宿泊費を運営費にして採算が取れたら貯蓄もできるし、中等部や高等部を増校させたり、それが無理なら進学を支援するようにしたいです。

村の経済の安定かも目指しているので、ゲストハウスが建ったら村人がサリーの作り方やインド料理の作り方などを教えるワークショップを開講したら面白いと思います。時間はかかるけれど現地は現地で運営していけるようにしたいと考えています。

B:
今日はお忙しい中ありがとうございました。


インドの学校に通えない子供たちに読み書きを教えたいというところから始まったMother Baby Schoolですが、子供たちが必要なことをしっかりと学ぶこと、そして進学や就業を見据えた時に課題はまだまだ積み重なっています。

林さんをはじめとしたスタッフが真摯にそうした問題に向き合い解決を目指そうとする中で、インド社会の抱える経済格差や根強いカースト意識、教育政策の問題は決して軽視できるものではありません。

現在Mother Baby Schoolは、緊急の問題として取り組んでいる私立化という大きな課題に対し、マイクロファンディングサイトREADYFORを通じて必要な資金150万円を募集しています。募集期間は2013年7月9日まで。

学校に行けない子どもたちへ、学び場の贈り物を!(林 寛与) - READYFOR


興味はあるけれど現地に行くのは難しいという方はこちらに協力してみてはいかがでしょうか。

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