OECD「トリクルダウンは起こらなかったし、所得格差は経済成長を損なう」という衝撃の報告について

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先日発表されたOECDの報告がトリクルダウンを否定し、所得格差が経済成長を損なっていると指摘しています。今後の各国の経済政策にも影響を与えることにもなりそうです。詳細は以下から。

かつて「一億総中流」と言われた日本は、いつの間にかアメリカ合衆国などの先進国と同様に格差社会であると言われるようになり、しかも単なる格差のみならず、格差を理由とした貧困が大きな問題になってきました。

ネットカフェ難民やホームレス、非正規雇用の問題に始まり、教育や介護、将来設計に至るまで、格差と貧困が暗い影を落としています。最近では子どもの貧困が6人に1人という衝撃的な報告もあり、ホームレス化する子供の問題も取り上げられています。

夕食は「おにぎりパーティー」 子どもの貧困6人に1人 – 選挙:朝日新聞デジタル

“ホームレス”の子ども 10年で85人 NHKニュース

子どもの貧困率16.3%と過去最悪にしたアベノミクス-貧困連鎖がもたらす社会的損失と戦争のスパイラル(井上伸) – 個人 – Yahoo!ニュース

富裕層の富が下々に滴り落ちるというトリクルダウン理論の問題は先日BUZZAP!でも指摘しましたが、今回のOECDの報告はこれを完全否定するものとなっています。

◆所得格差は経済成長を損ない、所得格差を是正すれば経済成長は活性化される
12月9日にOECD(Organisation for Economic Co-operation and Development:経済協力開発機構)は所得格差は経済成長を損ない、所得格差を是正すれば経済成長は活性化されるとの最新の分析を発表しました。

OECDとは? – 経済産業省

OECDによると、所得格差は経済成長を損なう ニュースルーム – OECD

これまでは一般的に成長促進と格差対策は一方を追求すれば他方を犠牲にせざるを得ないトレードオフ関係にあるとされてきました。しかしOECDはこの見方に終止符を打つと宣言し、「格差の抑制や逆転を促す政策は、社会の公平化に繋がるばかりでなく、富裕化にも繋がり得る」としています。日本語版ワーキングペーパーは以下から閲覧できます。

『所得格差の動向と経済成長への影響』(pdf)

◆トリクルダウンは起こらなかった
まずこのペーパーの中で指摘されているのが、過去30年でOECDに加盟する諸国の大半でトリクルダウンは起こらず、富裕層と貧困層の格差が最大になったということ。その中でも1%の超富裕層を始めとした最上位の富裕層の平均所得が特に増加していると同時に、下位10%では好況時の伸びが遥かにゆるやかな一方で不況時には落ち込み、相対的所得貧困が指摘されています。

また、格差は最上位と最下位のみならず、格差を測るジニ係数も1980年代半ばに0.29だったものが2011~12年には0.32へと3ポイント上昇しています。

OECDはそうした状況に対し、所得格差がその後の中期的な成長に悪影響を及ぼすと分析しています。ジニ係数が3ポイント上昇すると、経済成長率が25年間に渡り毎年0.35%ずつ押し下げられ、25年間の累計的なGDP減少率は8.5%にも及ぶと指摘します。

そして、その成長への悪影響の最大の要因を低所得世帯とそれ以外の所得相関の格差であり、その悪影響は最下位10%のみならず、下位40%までの全ての所得層にまで及ぶとします。つまり、貧困の問題に取り組むだけでなく、より広義に低所得の問題に取り組む必要があるとのこと。

◆なぜ格差が成長を妨げるのか?
ではなぜ格差が成長を押し下げることになるのか。OECDによると、それは「人的資源の蓄積を阻害することにより、不利な状況に置かれている個人の教育機会を損ない、社会的流動性の低下をもたらし、技能開発を妨げる」ためです。

どういうことかというと、所得格差が拡大するにつれ、低学歴の両親を持つ個人の人的資本が悪化しますが、中学歴、高学歴の両親を持つ個人の人的資本はほとんど影響を受けません。格差は不利な状況に置かれている個人の教育機会と上方流動性に悪影響を与えます。

例えば日本では奨学金という名の学資ローンの返済が大きな問題になっています。学費の高騰に伴い、低所得層では奨学金を利用しなければ進学が困難な状況がありますが、非正規雇用の拡大などにより卒業後の返済の目処が立たないため進学自体を諦めざるを得ないケースもあります。

奨学金問題とは? | – 奨学金問題対策全国会議

◆どのような政策で対応できるのか?
先にも述べましたが、OECDは今回の統計データから成長促進と格差対策はトレードオフ関係にはないと指摘します。「成長の恩恵は自動的に社会全体に波及するわけではない」とトリクルダウン理論を否定した上で、「格差の抑制や逆転を促す政策は、社会の公平化に繋がるばかりでなく、富裕化にも繋がり得る」との見方を示します。

もちろん「対象を適切に絞り込んでいない、あるいは、最も効果的なツールを重視していない再分配政策は、資金の浪費と非効率の温床になりかねない」のですが、「租税政策や移転政策による格差への取り組みは、適切な政策設計の下で実施される限り、成長を阻害しない」とし、適切な対象の絞り込みや政策設計は必要であるとのこと。

具体的には最下層10%への貧困防止対策だけでなく、下位40%の所得層に対する税と給付による再分配が挙げられますが、それ以外にも「現金移転ばかりでなく、質の高い教育や訓練、保健医療などの公共サービスへのアクセス拡大」などの機会均等化を進めるための社会的投資を行うべきであるとします。

さらに「技能開発を促進するための戦略には、就労生活の全般にわたり、低技能者向けの職業訓練や職業教育を改善していくことも含まれていなければならない」としています。

再分配の対象としては「特に、再分配の取り組みは、人的資本投資に関する主要な決定がなされる対象である子供のいる世帯や若年層(を重視するとともに、生涯にわたる技能開発や学習を促進すべきである」として若者や子供に向けた格差対策が重要であるとします。

◆日本の政策は?
総選挙後、安倍政権は矢継ぎ早に介護報酬引き下げ、子育給付金の休止、法人税減税などこのOECDの報告の逆を行くような方針を次々に発表しています。下位所得層の財布や生活を直撃し、企業や富裕層を更に富ませるような方向性は中期的に見ると却って日本の経済成長を阻害することになってしまいそうです。

東京新聞 介護報酬引き下げへ サービス低下懸念も 政治(TOKYO Web)

子育て給付金、2015年度は休止との報道に「選挙は何だったのか」との声も

社会保障費増、最小限に抑制 15年度予算の方針原案  :日本経済新聞

法人税「2%超」下げ方針…税収減穴埋めは一部 経済 読売新聞(YOMIURI ONLINE)

なお、本ワーキングペーパーの完全版(英語)は以下から入手できます。

Social policies and data – OECD

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