稲田防衛相が「教育勅語の精神」を擁護して大炎上、「いいこと」も書いてあるのに…なんでダメなの?

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戦前教育の根幹であった教育勅語を稲田朋美防衛大臣が擁護してしまい大炎上しています。確かに現代にも通じる「いいこと」も書かれているのですが、どうしてこの教育勅語を擁護する事がこんなに責められるのでしょうか?詳細は以下から。

稲田朋美防衛大臣は3月8日の参院予算委員会で社民党の福島みずほ議員の質問に答え、「日本は道義国家を目指すべきである。そして(教育勅語の)核の部分は取り戻すべきだと考えている」と発言。当然のように大炎上となっています。

稲田防衛相「教育勅語を取り戻す」福島みずほの質疑 3_8参院・予算委員会 – YouTube

ですが、教育勅語には親孝行や友達を大切にするなど、私たちが普段当たり前と感じる「いいこと」が書かれているのも事実。ではいったいどうして教育勅語を擁護することががこんなにも大きな批判になるのでしょうか?何が問題とされているのか、ひとつずつ見ていきましょう。

◆違憲である
教育勅語は当時は現人神であった明治天皇の名によって1890年に山縣有朋内閣総理大臣と芳川顕正文部大臣に下された教育に関する勅語です。発布以降、第二次世界大戦に敗れるまでは修身・道徳教育の根本規範とされてきました。

しかし、第二次世界大戦後、1948年に衆議院は「教育勅語等排除に関する決議」を、参議院は「教育勅語等の失効確認に関する決議」を行っています。それぞれ引用します。


昭和23年6月19日 衆議院本会議

教育勅語等排除に関する決議

民主平和國家として世界史的建設途上にあるわが國の現実は、その精神内容において未だ決定的な民主化を確認するを得ないのは遺憾である。これが徹底に最も緊要なことは教育基本法に則り、教育の革新と振興とをはかることにある。しかるに既に過去の文書となつている教育勅語並びに陸海軍軍人に賜りたる勅諭その他の教育に関する諾詔勅が、今日もなお國民道徳の指導原理としての性格を持続しているかの如く誤解されるのは、從來の行政上の措置が不十分であつたがためである。

 思うに、これらの詔勅の根本理念が主権在君並びに神話的國体観に基いている事実は、明かに基本的人権を損い、且つ國際信義に対して疑点を残すもととなる。よつて憲法第九十八條の本旨に從い、ここに衆議院は院議を以て、これらの詔勅を排除し、その指導原理的性格を認めないことを宣言する。政府は直ちにこれらの詔勅の謄本を回収し、排除の措置を完了すべきである。

右決議する。

■ 教育勅語等排除に関する決議 1948年6月19日 衆議院本会議より引用)

ここでは「この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。」とした日本国憲法第98条によって教育勅語が排除され、指導原理的性格を認めないことが宣言されています。つまり、教育勅語は違憲であるが故に排除されたのです。なぜかといえば「明かに基本的人権を損い、国際信義に対して疑点を残すもととなる」から。

次に参議院です。


昭和23年6月19日 参議院本会議

教育勅語等の失効確認に関する決議

われらは、さきに日本国憲法の人類普遍の原理に則り、教育基本法を制定して、わが国家及びわが民族を中心とする教育の誤りを徹底的に払拭し、真理と平和とを希求する人間を育成する民主主義的教育理念をおごそかに宣明した。その結果として、教育勅語は、軍人に賜はりたる勅諭、戊申詔書、青少年学徒に賜はりたる勅語その他の諸詔勅とともに、既に廃止せられその効力を失つている。

しかし教育勅語等が、あるいは従来の如き効力を今日なお保有するかの疑いを懐く者あるをおもんばかり、われらはとくに、それらが既に効力を失つている事実を明確にするとともに、政府をして教育勅語その他の諸詔勅の謄本をもれなく回収せしめる。

われらはここに、教育の真の権威の確立と国民道徳の振興のために、全国民が一致して教育基本法の明示する新教育理念の普及徹底に努力をいたすべきことを期する。

右決議する。

教育勅語等の失効確認に関する決議(第2回国会):資料集:参議院より引用)

参議院は教育基本法を制定し「わが国家及びわが民族を中心とする教育の誤りを徹底的に払拭し、真理と平和とを希求する人間を育成する民主主義的教育理念をおごそかに宣明」したことによって教育勅語は既に失効しているとしながらも、まだ教育勅語に効力があると勘違いする馬鹿者が現れた時のために念を入れて失効したことを明確にする決議を行っています。

ここまでで分かるのは、教育勅語は日本国憲法違反であり「教育勅語の精神を取り戻すべきだ」などという主張をする稲田防衛相は「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。」とした日本国憲法第99条の憲法尊重擁護義務に反しており、違憲であるということ。

3月8日のうちに辞職していなければおかしい事件なのですが、いまだに国会議員どころか防衛相の職も辞していないということが極めて異常であると言えるでしょう。

◆教育勅語である必要がない
また、教育勅語には「いいこと」も書いてあると息巻く人がいるのですが、そこに書かれている「いいこと」というのは全くもって当たり前の事でしかありません。12の徳目として知られる部分を見てみましょう。解釈や訳は数多くあり正確性もまちまちなため、ここではWikipediaの記述を参照します。


1. 父母ニ孝ニ (親に孝養を尽くしましょう)
2. 兄弟ニ友ニ (兄弟・姉妹は仲良くしましょう)
3. 夫婦相和シ (夫婦は互いに分を守り仲睦まじくしましょう)
4. 朋友相信シ (友だちはお互いに信じ合いましょう)
5. 恭倹己レヲ持シ (自分の言動を慎みましょう)
6. 博愛衆ニ及ホシ (広く全ての人に慈愛の手を差し伸べましょう)
7. 学ヲ修メ業ヲ習ヒ (勉学に励み職業を身につけましょう)
8. 以テ智能ヲ啓発シ (知識を養い才能を伸ばしましょう)
9. 徳器ヲ成就シ (人格の向上に努めましょう)
10.進テ公益ヲ広メ世務ヲ開キ (広く世の人々や社会のためになる仕事に励みましょう)
11.常ニ国憲ヲ重シ国法ニ遵ヒ (法令を守り国の秩序に遵いましょう)
12.一旦緩急アレハ義勇公ニ奉シ以テ天壌無窮ノ皇運ヲ扶翼スヘシ (国に危機が迫ったなら国のため力を尽くし、それにより永遠の皇国を支えましょう)

1から11までは特に驚くほどのこともない、どこにでもある普通の「道徳」です。これらのことは参議院の「教育勅語等の失効確認に関する決議」の中に記述の現れる教育基本法の第一章第二条の中にも描かれており、わざわざ教育勅語を引っ張り出してくる理由がありません。


第二条
教育は、その目的を実現するため、学問の自由を尊重しつつ、次に掲げる目標を達成するよう行われるものとする。

1.幅広い知識と教養を身に付け、真理を求める態度を養い、豊かな情操と道徳心を培うとともに、健やかな身体を養うこと。
2.個人の価値を尊重して、その能力を伸ばし、創造性を培い、自主及び自律の精神を養うとともに、職業及び生活との関連を重視し、勤労を重んずる態度を養うこと。
3.正義と責任、男女の平等、自他の敬愛と協力を重んずるとともに、公共の精神に基づき、主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度を養うこと。
4.生命を尊び、自然を大切にし、環境の保全に寄与する態度を養うこと。
5.伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと。

教育基本法より引用)

「親孝行や、兄弟、夫婦、友人と仲良くすることが含まれていないじゃないか!」とお怒りになる諸兄には、その程度の事も明記されていなければ実行できないのかと逆に問いたいところ。例えば新訳聖書の「ルカによる福音書」には


6:32自分を愛してくれる者を愛したからとて、どれほどの手柄になろうか。罪人でさえ、自分を愛してくれる者を愛している。 6:33自分によくしてくれる者によくしたとて、どれほどの手柄になろうか。罪人でさえ、それくらいの事はしている。

口語訳聖書 – ルカによる福音書より引用)

とあります。これは有名な「右の頬を打たれたら~」のフレーズのすぐ後にある部分で、親孝行や兄弟、夫婦、友人と仲良くするようなことは罪人であってもすることで、誇るようなことではないと一刀両断されています。つまり、世界的に見てもそんなことは敢えてわざわざ言わなければならないほど難しい徳目ではないということ。

もちろんこの辺りは一般的な徳目であり、戦後日本で成長した日本人は、教育勅語を愛好する人々の多くが蛇蝎の如く忌み嫌う日教組の下の学校教育の中でも、これら1から11までの徳目は「道徳」の授業などでなんらかの形で教え込まれてきたことでしょう。つまり、ここまでであれば教育勅語である必要が皆無なのです。

それでもなお「教育勅語の核の部分を取り戻したい」などと教育勅語に執着するのであれば、そこには「教育勅語でなければならない理由」があるということになります。つまり、12番目の徳目です。

◆神である天皇が臣民に下賜した教育勅語と現代社会の乖離
もう一度その12番目の徳目を見てみましょう。


12.一旦緩急アレハ義勇公ニ奉シ以テ天壌無窮ノ皇運ヲ扶翼スヘシ (国に危機が迫ったなら国のため力を尽くし、それにより永遠の皇国を支えましょう)

ここに書かれているのは「有事の際には永遠の皇国を支えるために命を掛けて力を尽くしましょう」ということ。第二次世界大戦の前の大日本帝国において、現人神として絶対的な存在である天皇が臣民たる日本国民に向けて下した勅語の中で、命を掛け、力を尽くして皇国を守れと説いているのです。

つまり、1から11までの徳目は天皇の臣民としての平時の徳目を説いており、当然ながら特別に奇異なものではありません。現代から見れば基本的人権や男女平等、自由民権や国際関係など足りない部分も多いのですが、それぞれは現代の価値観から見ても大きくは外れていません。

ただしそれらはあくまで平時の徳目であり、「一旦緩急」あった際には天皇と日本のために命を捧げる事を求めています。つまり、天皇と国が個人よりもはるかに上に置かれ、臣民たる日本人は絶対的な忠義を求められていたということになります。

現代日本の主権者が天皇ではなく国民であることは改めて説明するまでもありません。そこでかつての主権者であった天皇が臣民に対して下賜した勅語を復活させたとしても全くそぐわないのは明々白々です。

徳目の1~11までがどこにでもある、わざわざ「取り戻す」までもない普通の道徳である以上、教育勅語を復活させたい人は12番目の徳目を復活させたいのだと考えるのが妥当です。だとすれば彼ら彼女らが目指すのは大日本帝国のような「有事には個人の人権や命を投げ打ってでも日本という国家のために尽くす事を当然とする社会」だと考えるしかありません。

◆教育勅語の復活がダメな理由
まとめましょう。教育勅語を復活させるのがダメな理由は、まず一般論として12番目の徳目を除けば世界中のどこにでもあるような道徳であり、わざわざ復活させる必要がないこと。そして復活させるにしても、「天皇が臣民に対して下賜した勅使」という形式は、象徴天皇制を採用し、国民主権である現代日本には全くそぐわない代物であることが挙げられます。どうしても教育に道徳を求めるのであれば教育基本法第一章第二条で問題ないはずです。

また、12番目の徳目は個人の命や権利を捨てて天皇のため、国家のために捧げる事を求めるという内容で、基本的人権を損なうものであり到底認められるものではありません。もちろんこの意見は筆者の私見ではなく、衆議院が決議したものです。

そして稲田防衛相に関していえば、憲法違反であると決議された教育勅語の復活を目論む事は憲法99条の憲法尊重擁護義務違反であり、即座に辞職して然るべきところです。もちろんこのような人物を防衛相とした安倍首相の任命責任も厳しく追及されるべきであり、この一時を持って内閣総辞職となってもおかしくないはずの大炎上案件です。

世間がドン引きした「愛国幼稚園」運動会での宣誓や教育勅語の素読、自民党議員らが国会で賞賛 | BUZZAP!(バザップ!)

なお、教育勅語擁護論者の中には「逆・教育勅語」なるものをひねり上げ、教育勅語に反対する人が12の徳目全ての逆を理想としているかのような稚拙で愚劣な印象操作を行う者がいますが、全くの詭弁。そんなことを主張している人など残念ながら存在しません。

そもそも、保守・愛国を名乗って教育勅語を崇める者が、明治天皇が下賜した勅語を自分勝手に改変し、政敵を攻撃する道具として面白半分に用いるなど言語道断の不敬行為であり、今すぐ腹を掻っ捌いて詫びるべき非礼の極みではないかと思われるのですが、いかがでしょうか?

また、教育勅語を園児たちに素読させる森友学園の塚本幼稚園で、理事長や副理事長らによって行われている児童虐待ヘイトスピーチなどを見るにつけ、教育勅語の1~11までのごく当たり前の徳目すら全く身についていないことがよく分かりますが、これはいったいどうしたことなのでしょうか?

東京新聞_「園児に教育勅語 どこがいけない」 稲田氏が11年前、文科省に_政治(TOKYO Web)

稲田防衛相:「教育勅語自体が全く誤りというのは違う」 – 毎日新聞

稲田防衛相「教育勅語の核の部分は取り戻すべき」 News i – TBSの動画ニュースサイト

「教育勅語」復活論者は、単に歴史の無知をさらしているだけ

共産 志位委員長 防衛相の教育勅語発言を追及へ _ NHKニュース

(Photo by Wikipedia

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