「埼玉で人並みの生活するのに月収50万円必要」の示す景気回復のカギ

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Photo by Sebastian “Basti” Bojek Photography

「人並みの生活が送れるなら、ひと家族は毎月50万円を消費する」と言い換えることもできそうです。詳細は以下から。

埼玉県労働組合連合会(埼労連)が有識者らとまとめた調査結果によると、子供2人を抱えるひとつの家族が人並みに暮らして行くには月収50万円、年収では600万円が必要になるとの調査結果をまとめました。

調査では、昼食を食べる場所や日ごろの買い物の場所や支出など、日常生活でのお金の使い方を聞く「生活実態調査」に加え、生活に必要な持ち物を聞く「持ち物財調査」のアンケートを、2016年1月に埼労連の組合員など3000人に依頼、597人から回答を得ました。

この分析の中で回答者の7割以上が持つ物を「必需品」とし、それを持つ生活を「普通の生活」と定義、実際の価格なども調べました。家族構成は夫は正社員、妻はパート、そして子供は2人おり、自動車は持っていないという設定です。

◆「月収50万円」の意味するもの
ただし、今の日本社会では「30代夫婦で小学生と幼稚園児」という設定が人並みで普通の30代であるという認識自体が共有されるか不安な状況にあります。例えば、この状況で必要年収が599万円とされていますが、妻がパートで扶養に入ることを考えれば、夫の年収は500万円必要ということに。

正規雇用であれば30代でこの程度の年収に届く可能性もありますが、現在は非正規雇用が4割にも達している状態。時給換算で年収500万円を考えると、月に20日間、8時間ずつ働いたとして時給2600円が必要となります。

もちろん高度な専門職でなければ、こうした待遇を勝ち取る事は不可能と言っていいレベルに困難です。週休1日で毎日5時間、毎月120時間残業すると考えるとその時給は1300円前後まで下がりますが、完全に過労死ラインを超えてしまいます。

つまり、ここでは一部の賃金のよい(もちろん待遇がブラックでないとは限りません)企業に正規雇用されている人以外にとって、埼玉県で結婚して2人の子供を産み育てながら「人並みの生活」をする事は、自動車の所有を諦めたとしても極めて困難であるという現状が浮き彫りになっています。

実際にお金そのものに加え、将来的に必要となる安定した雇用や賃金を得られる保証がないことから、結婚や出産、育児を断念する若い世代は後を絶たず、さらなる少子高齢化、それに伴う労働人口の急激な減少に日本社会は見舞われており、悪循環が止まる気配もありません。

◆景気回復のカギとしての「月収50万円」
ただし、この調査結果は景気を回復させ、さらには少子高齢化を止める大きなカギともなるもの。つまりは、現在収入が少なく、将来を安定して見通せない世代が十分な収入を安定して得られれば、彼らはこれだけの消費を行い、家庭を作っていく可能性が大きく上がるということです。

「若者の〇〇離れ」のような消費行動に若者が食いつかない現象は、その多くが単純に若者にお金がないことに基づきます。もちろんこれは若者だけの話ではなく、いずれの世代にも共通するもの。

収入が増えることで人はこれまで我慢してきた「人並みの生活」をするためにお金を使い、市場に落とすため、社会にお金が循環して消費行動が増加してゆくことは言うまでもありません。

富裕層がこれまで以上にお金を集めても、富裕層の数自体が少ない上に、それらは「毎月必要として使うお金」ではないため、その循環は極めて限定的なものに終わります。

これまで食べられなかった美味しいランチを食べる。行きたかったライブに行く。欲しかった趣味の品を買う。たまには家族で旅行にも行ってみる。月収50万円が手の届かない夢ではなくなり、「人並みの生活」を人々が楽しめる状況になれば、それに応じた消費行動が行われて行くことになります。

そうした行動は既に始まっており、4月15日には東京を始め札幌、名古屋、京都、松本など日本各地で「最低賃金1500円」を求めるデモが行われました。主宰したAEQUITAS(エキタス)は以前からこのスローガンを掲げてきましたが、なぜか「1500円なんて高すぎる!」という謎の批判を受けてきました。

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しかし、この「最低賃金1500円」で月20日、1日8時間働いたとしても、月収24万円、年収では288万円にしかなりません。夫婦がフルタイムの共働きをしてようやく576万円となりますが、手取りで考えればもっと下がります。もちろん子供2人を抱えて夫婦フルタイムの共働きなど「保育園落ちた日本死ね!」の状況が改善されていない今の日本では夢のまた夢。

そう考えればAEQUITASの要求ですらささやかなものでしかなく、これすら実現できないのであれば消費行動が増加して景気が回復することなど考えられようはずもありませんし、もちろん少子高齢化も止まりません。

OECDが2年前に格差は「人的資源の蓄積を阻害することにより、不利な状況に置かれている個人の教育機会を損ない、社会的流動性の低下をもたらし、技能開発を妨げる」ため、「格差の抑制や逆転を促す政策は、社会の公平化に繋がるばかりでなく、富裕化にも繋がり得る」と看破したように、必要なのは格差を抑制し、再分配を促すこと。それは単に社会を公平なものにするだけでなく、より富ませる成長戦略の一環ともなり得ます。

OECD「トリクルダウンは起こらなかったし、所得格差は経済成長を損なう」という衝撃の報告について | BUZZAP!(バザップ!)

埼玉で人並みの生活、月収50万円必要 県労連が調査:朝日新聞デジタル

(Photo by Sebastian “Basti” Bojek Photography

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