サンフランシスコの慰安婦像設置、日本の自称保守界隈と産経新聞が進める「歴史戦」のせいだった

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大阪市が「姉妹都市解消」を決定するなど、揺れに揺れるサンフランシスコの「慰安婦像」。

そもそも一体どうして建てられることになったのかを突き詰めていくと、そこには日本の保守を名乗る人々がせっせと掘った墓穴がありました。詳細は以下から。

◆サンフランシスコ市と大阪市が姉妹都市解消へ
今年60年目を迎えたアメリカ合衆国のサンフランシスコと大阪市の姉妹都市関係。その解消を11月24日に大阪市の吉村洋文市長が正式に表明しました。一部メディアを中心に安倍首相とトランプ大統領の極めて友好な関係が強調される中、いったいなぜこのような事態に至ったのでしょうか。

姉妹都市解消の理由として吉村市長が挙げているのは、在米中国系民間団体が設置した慰安婦像と碑文をサンフランシスコ市が公共物化したこと。

サンフランシスコの市議会は慰安婦問題の市への寄贈を受け入れる決議案を11月14日の時点で全会一致で可決しており、エドウィン・リー市長は10日以内に拒否権を行使することが可能でしたが、自動執行を待つことなく、11月22日に決議案への署名を行っています。

慰安婦像について吉村市長がリー市長との会談を求めた書簡に対して、サンフランシスコ市側はメールで「会談は可能だが、慰安婦像について交渉の余地はない」と返信。

さらに安倍首相が「我が国政府の立場と相いれず極めて遺憾」と述べ、リー市長に対し拒否権を行使して像を受け入れないよう政府として申し入れていましたが、こちらも実を結びませんでした。

ではいったいなぜ慰安婦像の寄贈の受入を市議会が全会一致で可決し、市長も積極的に署名を行ったのでしょうか。そこには日本の自称保守界隈の「歴史戦」によって掘られた深い墓穴がありました。

◆問題の慰安婦像はどのようなものなのか?
まずは今回問題になっている慰安婦像がどのようなものかをざっとおさらいしておきましょう。

この像は、朝鮮半島と中国とフィリピン出身の若い女性3人が手をつなぎ円を描く様子を描いたブロンズ像。作者はイギリス生まれの彫刻家Steven Whyteさんです。

像の資料によると、この像が象徴するのは多様性、連帯、勇気、さらには記憶、回復力、正義とされています。

この像について吉村市長が問題視したのは碑文の記述です。吉村市長は碑文に対して『日本軍が強制連行し、数十万人の女性を性奴隷にし、そのほとんどが捕虜のうちに亡くなった』というのは、一方的な主張だ。確実に歴史的事実でないものは日本バッシングになる。違うものは違うと明確に意思表示すべきだと主張しています。

少し長くなりますが、実際の碑文を掲示します。

“Our worst fear is that our painful history during World War II will be forgotten”
— former “Comfort Woman”

This monument bears witness to the suffering of hundreds of thousands of women and girls, euphemistically called “comfort women,” who were sexually enslaved by the Japanese Imperial Armed Forces in 13 Asian-Pacific countries from 1931 to 1945.

Most of these women died during their wartime captivity. This dark history was hidden for decades, until the 1990s, when the survivors courageously broke their silence. They helped move the world to declare that sexual violence as a strategy of war is a crime against humanity for which governments must be held accountable.

This memorial is dedicated to the memory of these women, and to the crusade to eradicate sexual violence and sex trafficking throughout the world.

「私たちが最も恐れるのはこの痛ましい第二次世界大戦中の歴史が忘れ去られることだ」
かつての「従軍慰安婦」

この記念碑は遠回しに「従軍慰安婦」と呼ばれ、アジア13ヶ国で1931年から1945年の間に大日本帝国軍によって性奴隷にされた数十万人の女性と少女たちの苦悩を証言するものです。

女性らの大半が戦争中にとらわれの身のまま死んでゆきました。この悲惨な歴史は1990年代に至り、生存者らが勇気を持って沈黙を破るまで何十年も隠され続けてきました。彼女らは軍事戦略として行われる性暴力が、政府に責任のある人道に対する罪であることを世界が言明するための後押しとなりました。

この記念碑は性奴隷にされた女性たちの記憶と、現在も世界中に広がる性暴力と性的人身売買を根絶する運動のために捧げられます。

Nichi Bei >> Wartime sex-slave memorial’s inscription finalizedより引用、拙訳)

まずここで吉村市長の主張との齟齬を指摘しておくと、碑文の「most of」を「ほとんど」と訳してしまうのはニュアンス的に行き過ぎで、せいぜい「大半の」といったもの。

また「Japanese Imperial Armed Forces」は確実に大日本帝国軍の事をさしていますが、なぜか吉村市長は「日本バッシングになる」と述べています。これは非常に不思議な態度です。

なぜならナチスドイツと現在のドイツが別物であるように、大日本帝国と現在の日本は別物だからです。つまり大日本帝国軍の所業が非難されても現在の日本がバッシングされたことにはなりません。

例えばナチスドイツと現在のドイツを連続した存在とみなし、ナチスの所業を批判されると反発してホロコースト否定論をぶち上げる人物は確実に歴史修正主義者、ネオナチ扱いされます。

そう考えれば、「吉村市長は大日本帝国と戦後日本を連続した存在とみなす思想信条の持ち主であるからこそ、大日本帝国軍による慰安婦問題に反発している」とみなされても不思議はありません。

であれば、サンフランシスコ市議会も市長も歴史修正主義などに屈するわけにはいきませんから、慰安婦像の寄贈受入を拒否する事はできません。

◆そもそも、なぜ市議会は慰安婦像の寄贈受入を全会一致で可決したのか
この時点では吉村市長の自爆のように見えますが、問題のターニングポイントは2015年にまで遡ります。慰安婦碑の設置が議題とされたサンフランシスコ市議会監理委員会の公共安全と近隣サービス委員会がこの年の9月17日に開催されました。

この委員会で証言を行ったのは先日のトランプ大統領のアジア歴訪の際に韓国での夕食会に出席した元従軍慰安婦のイ・ヨンス(李容洙)さん

カリフォルニア州グレンデール市の慰安婦像撤去訴訟の原告の1人であり、在米日本人らによるNPO法人「歴史の真実を求める世界連合会(GAHT)」の目良浩一代表は、わざわざ委員会を訪れて歴史修正主義全開の演説を行ったのみならず、このイ・ヨンスさんが「嘘吐き」「単なる売春婦」と個人攻撃を行ったのです。以下に目良浩一代表本人によるブログポストを引用します。

私は、そこで言われている慰安婦説が、史実に沿わないことを説いた。第一に、20万人説が、虚偽であること、第二に、強制連行があったとすることが真実でないこと、更に彼らが性奴隷であったことが真実でないと述べた。更に、具体例をあげますとして、「本日ここで証言されたイ・ヨンスさんは、サンフランシスコ州立大学の人類学教授、C.サラ・ソー氏の2008年の『慰安婦』と称する図書によりますと、ある日の早朝に友だちと共に家をこっそり出て、慰安婦の斡旋員のところへ行き、」と述べた時に議長のマー氏が制止した。

マー氏: イさんは、そんなことは言っていない。君は、彼女が嘘つきだというのか。

目良: 最後まで言わしてください。
マー氏: 彼女はそんなことは言っていない。

目良: 私は、彼女が言ったことを繰り返すことはしません。この本に書いてあることを述べているのです。この本を読んでください。続けます。

「そこで赤いドレスと革靴をもらって大いに喜んだ」とあります。これがこの本に書いてあることです。

_サンフランシスコ市議会委員会への参加者からの報告! _ 歴史の真実を求める世界連合会より引用)

こちらがイ・ヨンスさんの演説と、それに続いて行われた日本の自称・保守界隈による演説です。字幕から日本語の自動翻訳を選択することができます。

_Backlash_ Japan Abe’s Denialist Supporters Attack Korean Ex-Comfort Woman Grandma Yongsoo Lee – YouTube

日本人の自称保守界隈のこうした歴史修正主義と個人攻撃に対してカンポス委員は「恥を知れ」と批判。大きな拍手が湧き起こりました。


仮に慰安婦の問題を抜きにしても、日本が引き起こした戦争によって青春時代に辛い思いをしたであろう高齢女性を公然と個人攻撃するさまが、客観的にどれだけ異様に見えるかに気付くことができる人は「歴史の真実を求める世界連合会」にいなかったのでしょうか。


このような動きに日本政府が関わっていないことが強く懸念されていたにもかかわらず、今回政府が直接申し入れを行ったことが、火に油を注ぐ結果になっています。


カンポス委員の発言部分の動画。

委員の演説の全文はT.Katsumi氏のツイッターモーメントにまとめられています。そして委員の演説は最後に、慰安婦像の必要性が歴史修正主義者らの存在によって裏付けられたことを明確に指し示しています。

つまり日本の自称保守界隈による歴史修正主義的発言とイ・ヨンスさんへの個人攻撃によってサンフランシスコ市議会に慰安婦像が必要であると強く認識させてしまい、全会一致での寄贈の受入に繋がったということ。「歴史戦」を標榜して攻め込んだつもりが、極めて壮大なオウンゴールを決めてしまったということになります。

◆「歴史の真実を求める世界連合会(GAHT)」という組織はいったい何?
この「歴史の真実を求める世界連合会(GAHT)」なる組織の会長を務めるのは日本会議代表委員の加瀬英明

今上天皇の生前退位に対して畏れ多くも、陛下はご存在事態が尊いというお役目を理解されていないのではないかと意見して物議を醸した人物でもあります。

ここに発起人として「新しい歴史教科書をつくる会」の創設者である藤岡信勝前会長、自称保守界隈のなでしこアクションの山本優美子氏らが名を連ねています。

また、GAHTの活動を強力にバックアップし続けているメディアが産経新聞

元日本のこころを大切にする党代表(現:希望の党)中山恭子議員や自民党の山田宏参院議員が賛同しているとし、記事内で目良代表の報告会に両議員が出席し、以下のように発言したことを紹介しています。

中山氏は「真実ではない事柄で日本の名誉が傷つけられる。小さな力だが、私自身も懸命に名誉回復のために動いていきたい」とあいさつ。山田氏は「目良先生が投じた一石は、『日本は黙っていないぞ』ということをきちんとさせる意味でも大きなことだった」と目良氏をたたえた。

米慰安婦像撤去訴訟 目良浩一代表が報告会 「英語で世界に発信していく」 – 産経ニュースより引用)

中山恭子議員に至っては保守系チャンネル「チャンネル桜」で目良代表のインタビューまで行っています。

【日いづる国より】目良浩一、アメリカ訴訟社会での慰安婦像闘争[桜H28_5_20] – YouTube

平たく言うと自称保守界隈のいつもの面々が、慰安婦像について国内の支持者向けのアピールと同じノリで海外で演説を行ったところ、当然のように総スカンを食らった揚げ句「歴史修正主義者が存在している以上、このモニュメントは必要だ」と結論づけさせてしまった今回の騒動。

日本に「歴史修正主義国家」のレッテルを貼り、国自体の品位を貶めた最悪の行動です。

◆もはや「偏向」どころか大本営発表、産経新聞の報じ方があまりにもひどい
なお、今回特筆すべきが、歴史の真実を求める世界連合会(GAHT)の自称「歴史戦」活動をバックアップしている産経新聞の報道のひどさ。

上記でもお伝えしたように、2015年に行われた委員会ではGAHT・目良浩一代表が歴史修正主義者として文字通りフルボッコにされた揚げ句、日本の恥を異国の地で知らしめてしまったわけですが、記事ではそのようなことには一切触れず、「元慰安婦、証言の食い違い指摘され激高」などと、さも自分たちに正義があったかのようなタイトルを付けています。

【歴史戦】米サンフランシスコ市にも慰安婦碑・像設置の公算 22日に市議会で採決、元慰安婦、証言の食い違い指摘され激高 – 産経ニュース

しかし主張が認められることは一切なく、むしろ慰安婦像の設置を強くアシストする形になったわけですが、産経新聞は反省の色を見せるどころか「地域交流が潰された」と被害者面にシフト。このような事態を招いたのは一体誰のどのような活動で、その活動を強力に後押ししたのはどのメディアだったのかを省みてもらいたいものです。

【歴史戦】「姉妹都市解消は当然」潰された地域交流…在米日本人ら怒り サンフランシスコ慰安婦像(1/2ページ) – 産経ニュース

「外から見てどう思われるか」を無視した「歴史戦」を繰り返す自称・保守界隈と産経新聞。

もはや現代のインパール作戦と言っていいほどの無謀さですが、「歴史修正主義」のレッテルを貼られて困るのは日本、そして日本人であることに、いい加減気付いてもらえませんでしょうか。

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