【追記あり】安倍政権が「戦争法案」を「合憲と確信」などと反論するも全方位から袋叩きに

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3人の憲法学者全員に衆院憲法審査会で「違憲」であると断じられた「戦争法案」こと安保関連法案。政府はやっきになって「合憲」であると火消しに奔走していますが、むしろ自らさらに火を付けて回る結果となっています。

6月4日に開かれた衆院憲法審査会で、自民党推薦の長谷部恭男早大教授を含めた参考人の重鎮とも言える憲法学者3人が全員揃って「戦争法案」を「違憲」であると断定したことは安倍政権に大きな衝撃を与えることとなりました。

集団的自衛権行使を認める「戦争法案」、衆院憲法審査会で参考人の憲法学者全員が「違憲」と明言 | BUZZAP!(バザップ!)

もちろんこれで安倍政権側が折れるはずもなく、すぐさま反論が始まりましたがそれらがいちいち否定され、さらに安倍政権の姿勢に対する批判の炎に油を注ぐ結果となってしまいました。

◆合憲とする憲法学者が大勢いる?→具体名出せず
菅義偉官房長官は同日の記者会見で「法的安定性や論理的整合性は確保されている。全く違憲との指摘はあたらない」「まったく違憲でないという著名な憲法学者もたくさんいる」などと反論しましたが、翌日5日の記者会見では具体名を一切挙げられませんでした

なお、明日の自由を守る若手弁護士の会の調査では「戦争法案」を合憲とする憲法学者はわずか3名。


明日の自由を守る若手弁護士の会 戦争法案は合憲って語る憲法学者、「たくさん」いるなら出てこーい

また、報道ステーションが憲法学者50名に取ったアンケート(中間報告)でも1名に留まっています。


結局のところ「戦争法案」を「まったく違憲でないという著名な憲法学者もたくさんいる」という菅官房長官の言葉がデマであることが判明してしまいましたが、これに関しては「『ひとつ…ふたつ…たくさん!』だから3人いるのでデマではない」などという心温まる擁護論もあることを付け加えておきます。

【追記】
ようやく菅官房長官は「合憲」とする憲法学者の名前を挙げましたが、本当に3人でした。名前が挙がったのは百地章日本大教授、長尾一紘中央大名誉教授、西修駒沢大名誉教授。菅官房長官は3人しか挙げられなかったことについて「数ではない」と発言しており、結果的に「合憲」とする憲法学者がごく少数派でしかないことを認めてしまいました。

東京新聞 官房長官 合憲論学者「数ではない」 安保法案 与党、会期延長検討 政治(TOKYO Web)

◆憲法を法案に適用?→憲法軽視の姿勢が明確に
この問題に更なるガソリンを振り撒いたのが高村正彦副総裁と中谷元防衛大臣でした。高村副総裁は5日午前の役員連絡会で「憲法学者はどうしても憲法九条二項の字面に拘泥する」として「違憲」とした憲法学者を批判。同日の平和安全特別委員会で中谷防衛相からは「現在の憲法をいかにこの法案に適用させていけば良いのかという議論を踏まえて、閣議決定をおこなった」などと憲政史をひっくり返すような暴言が飛び出すことになりました。


中谷防衛相の発言は憲法が法律の上位に位置するという日本国憲法の立憲主義(憲法98条1項)を完全に否定している上に、それをたかだか内閣の閣議決定で決められるという唖然とせざるを得ないもの。憲法を蔑ろにしようとする意図があるか、あるいは中学校で習う立憲主義を全く理解していないかのどちらかであると言う他ありません。また、意図的なものであれば高村副総裁の発言と共に憲法99条に定められた憲法尊重擁護義務の違反とも言えるでしょう。

中谷防衛相はこの発言は大炎上となり、9日の閣議後の記者会見で「憲法のもとで法案を作成したという意味だ」などと、意味不明な釈明を行うはめになりました。

しかし高村副総裁は「学者の言う通りにしたら日本の平和が保たれたか極めて疑わしい」「60年前に自衛隊ができた時に、ほとんどの憲法学者が『自衛隊は憲法違反だ』と言っていた。憲法学者の言う通りにしていたら、自衛隊は今もない、日米安全保障条約もない。日本の平和と安全が保たれたか極めて疑わしい」として憲法尊重擁護義務に従う気配もありません。

【追記】
中谷防衛相は5日の「現在の憲法をいかにこの法案に適用させていけば良いのかという議論を踏まえて、閣議決定をおこなった」として大炎上した自らの発言について、10日の衆院特別委員会で「趣旨を正確に伝えられなかった」として撤回しています。

安保法案:「憲法の基本的論理は不変」中谷防衛相が反論 - 毎日新聞

◆合憲と確信→砂川判決を引用というミスリード
安倍首相は8日、サミットで訪れていたドイツで記者会見を行い、記者の質問に答える形で「違憲」とされる「戦争法案」に対して「憲法の基本的な論理は貫かれていると確信している」と反論。この際に持ちだされたのが砂川事件での判決です。

これは高村副総裁が2014年7月の集団的自衛権行使を容認する憲法解釈変更の閣議決定の際に「砂川判決は集団的自衛権行使を禁じていない」として根拠のひとつとしたもの。ですが、この判決自体は元々日本の集団的自衛権に触れるものではなく、完全に我田引水のご都合主義として野党からは多くの批判を受けており、それが今回の大炎上の発端となった3人の憲法学者による「戦争法案」が「違憲」であるとの明言にも繋がっています。

要するに今回「違憲である」と否定されたその原因をもう一度繰り返しているだけで、同じ所をループしているに過ぎず、何ら説得力などが生まれようもありません。

東京新聞 安保法案 根拠乏しき「合憲」 政府見解「砂川判決」を拡大解釈 政治(TOKYO Web)

時事ドットコム:砂川判決、乏しい論拠=集団的自衛権容認-安保法制


自由法曹団常任幹事の渡辺輝人弁護士は記事の中で

砂川事件の最高裁判決のテーマは、米軍の駐留の合憲性に関するもので、日本国の自衛権に関するものではありません。自衛権に関して言及した部分も個別的自衛権に関するものであると考えられています。

憲法違反を恥じない安倍首相こそ本当の「ルーピー」ではないのか(渡辺輝人) - 個人 - Yahoo!ニュースより引用)


として、自民党の「砂川判決は集団的自衛権行使を禁じていない」との見解を長谷部恭男教授の言葉も紹介しながら反論しています。

なお、この砂川判決は単に集団的自衛権に触れていないというだけの判決ではありません。2008年の時点でアメリカ合衆国の機密指定を解除された米公文書から、「マッカーサー駐日米大使(当時)が、同判決の破棄を狙って藤山愛一郎外相に最高裁への『跳躍上告』を促す外交圧力をかけたり、最高裁長官と密談するなど露骨な介入を行っていた」ことが既に事実として判明しています。つまり、日本の司法がアメリカ合衆国からの外圧に屈したことが明らかになっている事件であるということは忘れてはなりません。

安倍首相が安保法制違憲論にインチキ反論! 日米密約の「砂川判決」もちだす卑劣さも|LITERA/リテラ 本と雑誌の知を再発見

元々日本の集団的自衛権に触れられていないのみならず、司法が外圧でねじ曲げられたことが判明済みの砂川判決を根拠に憲法の解釈を自分勝手に変更するのは言語道断。そう考えるのはもちろん野党議員だけではありませんでした。

9日の総務会では法案に反対する村上誠一郎衆院議員が「憲法学者の言うことを自民党だけは聞かなくていいという傲慢な姿勢は改めるべきだ」と厳しく批判、法案の採決では党議拘束を外すべきだと執行部に要求した他、木村義雄参院議員も砂川判決を根拠とする憲法解釈に対して「短絡的すぎる。そういう主張をしていると傷口を広げるので、これ以上言わない方がいい」と指摘するなど、自民党内部でも来年の参院選を見越して不満の声が高まっています。

【追記】
6月10日の衆院特別委員会での質疑において、横畠裕介内閣法制局長官は「憲法9条は砂川判決で示されている通り、自衛権を否定していない。これまでの政府の憲法解釈との論理的整合性は保たれている」との合憲論を披露しながらも、共産党の宮本徹議員の「砂川判決は集団的自衛権について触れているか」との質問には「集団的自衛権について触れているわけではございません」と明言。

さらに砂川判決から政府見解として引用されている部分が判決を導き出す論理には入っておらず、あくまで「傍論」の部分であることを指摘。横畠内閣法制局長官もこれを認めてしまいました。

宮本議員は砂川判決以降も日本政府が「憲法9条のもとでは集団的自衛権の行使は認められない」という答弁を繰り返している経過からも、砂川判決を集団的自衛権の行使の根拠付けに使うのは全く無理であるとして厳しく批判しており、安倍政権の砂川判決を根拠とした主張が完全に崩れ去った形となっています。

質問の該当部分は以下の動画の33分ちょうどから。


合憲説明、政府ちぐはぐ 閣僚ら相次ぐ釈明:朝日新聞デジタル

岸内閣が集団的自衛権を容認する答弁をしたというのは本当か?(南野森) - 個人 - Yahoo!ニュース

◆今国会で採決を急ぐべき?
野党は安倍政権のこうした姿勢に対して攻勢を強めることは間違いなく、「違憲」であると断じられた従来通りの説明を繰り返すだけでは国民の理解を得られることも無さそうです。「合憲」であることについてこれ以上の説明ができないのであれば、一度廃案として白紙に戻し、最初の一歩から議論し直すのが立憲主義に基づいた国政運営なのではないでしょうか?

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