世界を蝕む「フェイクニュース」、ロシアのサイバー工作に見るその目的と勝利条件

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フェイクニュースは何のために作られ、何をもって成功とされるのでしょうか?ロシアが行ってきたサイバー工作から考えてみます。

◆フェイクニュースに満ちた「ポスト真実」という時代
2016年のアメリカ合衆国大統領選挙の際、ロシアがSNSを中心としたインターネット上でのサイバー工作を行った。そんな衝撃的な事実を米国の複数の情報機関が認めたのは選挙の終わった2016年末のこと。

それまではなんとなくまだSF上の出来事のように思えていたサイバー工作が現実のものとしてアメリカ合衆国大統領という世界トップクラスの権力者の選出に絡んで行われていたという事実は世界中に衝撃を与えました。

ですがその方法は天才的なハッカーによる機密情報のハッキングではなく、世界的な広がりを見せるSNSに流されるフェイクニュースという形を取っていました。

奇しくもトランプ政権がトランプ大統領の就任式における聴衆が「史上最大だった」とした捏造を「代替的な真実(Alternative Facts)」と主張したことはBUZZAP!でも報じたとおり。


ここに名実ともに「ポスト真実(Post Truth)」の時代が訪れ、フェイクニュースは季節を問わないインフルエンザウイルスのように私たちの周りを飛び交い、人々のSNSアカウントを媒介として爆発的な「感染」を引き起こすことになりました。

ではいったいなぜフェイクニュースは流されるのでしょうか?その目的はいったい何なのか、そして何をもって成功となるのでしょうか?ロシアの事例を紐解きながら考えてみます。

◆フェイクニュースの目的と手法
フェイクニュースの目的とは何か。この一番根っこのところにある動機は大きく「混乱」「煽動」そして「分断」と捉えることが可能でしょう。

コーツ米国家情報長官は2月13日に院情報特別委員会の公聴会で「ロシアがこれまでの行動を成功と考え、(11月の)米中間選挙を潜在的な標的と見なしているのは疑いない」として米国や欧州の同盟国に対し、選挙を利用して民主主義を損ない、内部対立をあおり、(欧米の)価値を傷つけようと、継続的で破壊的なサイバー工作を続けるだろうと指摘しました。

悪意に満ちて方向付けられたフェイクニュースが拡散することで、世論の関心や争点が特定の方向に誘導され、同時に対立は激化します。


マラー米特別検察官は2月16日にロシアの大統領選挙への介入に関し、ロシア国籍の13人と関連企業3社を初めて起訴しました。その中心的な役割を担ったとされる「インターネット・リサーチ・エージェンシー(IRA)」は1000件を越える休眠アカウントを乗っ取ってなりすまし、周到なサイバー工作を行っていました。

そこではヒラリー・クリントンの追い落としのためドナルド・トランプと共にバーニー・サンダースの支持が謳われ、ネットの外では「トランプのための行進」「ヒラリーをぶっつぶせ」「ヒラリー支援を。米国のイスラム教徒を救え」「フロリダはトランプで決まり」といった相反する主張の政治集会を開催。

IRAのサイバー工作に関してはハフィントンポストに掲載されたロシアの『フェイクニュース工場』は米大統領選にどう介入したのかという記事に詳しく描かれています。

これによって米国内の世論は大きく分断され、憎悪や差別が煽られ、混乱が助長されます。こうしたサイバー工作は大統領選後も継続的に行われていたことが示唆されており、先日の痛ましいフロリダ州の高校での銃乱射事件の発生後にもロシアのサイバー工作に使われているとみられる600のボットが世論工作を行っている可能性が指摘されています。

ここでは投稿やハッシュタグで、事件現場の自治体や容疑者の名前、「今すぐ銃規制を」「NRA(全米ライフル協会)」などのキーワードが急増しており、銃規制という米国社会の宿痾である大問題を用いて世論を煽動して分断を引き起こし、混乱を招くことが狙いであるともされています。

◆フェイクニュースの勝利条件とは?
では、何がどうなればあるフェイクニュースが「成功」したと言えるのでしょうか?誤解を恐れずに言うのであれば、それは「発信者の手を離れてネット上に拡散し始めた時点」で既に第1段階の「成功」に達しています。

これは言うなれば第3者によってフェイクニュースがリツイートやシェアをされ、いいね!を押されている状態です。その第三者が真実だと信じ込んで善意で拡散しているにせよ、真偽は問わず自分(たち)に都合がいいからと悪意を持って拡散しているにせよ、そのフェイクニュースは時にコメントを加えられ、改変されながら拡散してゆきます。

当然ながら、この手のフェイクニュースにはバイラルなり炎上なりのタネが仕込まれています。よくできたフェイクニュースは巧妙に読む者の感情を煽りながら敵対者を罵り、時に被害者を嘲笑い、フェイクへの賛同者に優越感を与えます。この時点で第2段階の「成功」に達したと言うことができるでしょう。

そしてバイラルなり炎上なりを起こしたフェイクニュースをメディアが取り上げられた時に「成功」は第3段階へと達します。メディアは全人類がSNSなどで発信者となれる現代においても未だ多くの人にオフィシャルな存在として認識されています。

そうしたメディアが取り上げることでこのフェイクニュースは「真実性」の担保を手に入れることになるのです。ここまで来れば後はそのメディアをソースとしてフェイクニュースはさらに拡散され、別のメディアに転載されて「既成事実」と化してゆきます。

◆フェイクニュースへの対策と残る問題点
フェイクニュースを水際で食い止めるにはどうすればよいのか。Facebookはロシアのサイバー工作に対しては470のロシア関係とみられる不審なアカウントから約3千の広告が出されていたとして、これらのアカウントを削除。さらにフェイクニュースや偽の広告などのチェック体制を、2018年に2万人に倍増するとも表明しています。

ですが、お分かりのようにこれは対症療法に過ぎません。フェイクニュースを発信するのはロシアだけではなく、怪しげな匿名アカウントだけでもないからです。

上述の「代替的な真実」という言葉がトランプ大統領側近のケリアン・コンウェイ氏の口から発せられたことを考えれば分かるように、フェイクニュースがれっきとした社会的立場を持った著名人や知識人から発せられることはいくらでもあり、そうした場合のフェイクニュースは発せられた時点で既に成功条件を満たした状態でメディアを通じてばらまかれることになります。

こうした公的な立場のある人物がメディアを通して広める「公的」なフェイクニュースの拡散をチェック体制の強化だけで押しとどめる事は極めて困難です。場合によってはメディア規制にも直結して「表現の自由」との衝突も起こり得る話ですし、フェイクニュース側としては対策を取られる間に少しでも広がればその分「勝ち幅を広げる」だけで、負けはありません。


フェイクニュースの発信側と対策側の立場がまったく非対称であり、「混乱」「煽動」「分断」を何らかの形でもたらすことが目的であるフェイクニュースの発信側は基本的には何をしても勝ち戦でしかありません。

◆ではどうすればいいのか?
フェイクニュースとの戦いは絶望的に見えますし、実際に極めて困難である事は間違いありません。上記のFacebookの試みは対症療法とはいえやらなくていい理由はありませんし、今現在多くのメディアが始めている地道なファクトチェックは絶対に必要な対策です。

しかしファクトチェックされたとしても一度広がったフェイクニュースは消え去ることはありませんし、例えネットのどこかにファクトチェックの結果があったとしても、拡散してしまったフェイクニュースの方がより影響力を持ち続けることは現状を見れば明らかです。

ではどうするべきなのか。メディアにせよ個人にせよ、フェイクニュースを発見した場合にはフェイクニュースよりも大きな声で叩くことです。中途半端に炎上させるだけでなく発信側を厳しく糾弾し、法的責任を含めて徹底的に追求するべきなのではないでしょうか。


真面目でおとなしく冷静な対策には限界がある事が既に分かっている以上、無難な両論併記や事実関係の伝達だけでは足りません。フェイクニュースが灰になって燃え尽きるまで完全に炎上し尽くさせる必要があります。

特に報道機関なりメディアを自称するのであれば、フェイクニュースを殲滅すべき害悪として認識し、自らが批判者としての立場をしっかりと取った上での検証と批判が必要でしょう。

(Photo by Mike MacKenzie

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