「裁量労働制拡大」の今国会断念でもしぶとく生き残る「残業代ゼロ法案」の片翼「高度プロフェッショナル制度」の恐怖

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裁量労働制は「残業代ゼロ法案」の半分でしかありません。まだ「高度プロフェッショナル制度」が生き残っています。詳細は以下から。

◆削除に追い込まれた「裁量労働制の拡大」
裁量労働制を巡って行われた「裁量労働制で長時間労働にはならない」という主張がデタラメだらけのデータにを根拠にしていた問題で、安倍首相はついに今国会に提出予定だった働き方改革関連法案から「裁量労働制の対象拡大」の削除に追い込まれました。

このデータを巡ってはBUZZAP!でも詳報しましたが、政府の方針に沿った結果となっていたことから「捏造」の可能性を指摘され、ないとされていた調査票があとから「発見」されるなど、単純ミスの範疇では片付けられない「疑惑」の案件となっていました。

同時に厚労省の担当者という部下に責任を押しつけて逃げようとする安倍首相や加藤厚労相の態度も「潔くない」「それでも最高責任者か」と批判され、残業時間の上限規制を人質にしながらこの法案をゴリ押ししようとする姿勢には「本当に働く人の事を考えているのか?」との不信感が広がっていました。

◆まだ生き残っている「高度プロフェッショナル制度」とは?
ですが、政府が削除するとしたのは「裁量労働制の拡大」のみで、残業代ゼロ法案の双璧のもう片方である「高度プロフェッショナル制度」の創設は今国会に提出して成立を図る考えです。いったいどんな制度なのでしょうか?

「高度プロフェッショナル制度」とは、年収1075万円以上の高度な専門知識を扱う専門職を対象に一定の要件の下、労働基準法の1日8時間、週40時間の労働時間規制を撤廃するという制度。

この制度の下では、該当者に労基法4章の労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定が適用されなくなります。つまりは1日8時間、週40時間の労働時間規制が無くなりますから「残業」自体が存在しないことになってしまうのです。また、休日出勤や夜勤などでの割増料金の支払いもありません。


「それでは労働者が過労死してしまう!」ということで健康確保措置が設けられていますが、以下の3種類のうち1つだけを選べばいいということになっています。それが

四 対象業務に従事する対象労働者に対し、次のいずれかに該当する措置を当該決議及び就業規則その他これに準ずるもので定めるところにより使用者が講ずること。
イ 労働者ごとに始業から二十四時間を経過するまでに厚生労働省令で定める時間以上の継続した休息時間を確保し、かつ、第三十七条第四項に規定する時刻の間において労働させる回数を一箇月について厚生労働省令で定める回数以内とすること。
ロ 健康管理時間を一箇月又は三箇月についてそれぞれ厚生労働省令で定める時間を超えない範囲内とすること。
ハ 一年間を通じ百四日以上、かつ、四週間を通じ四日以上の休日を確保すること。


イの場合は1日のうちに定められた連続する休息時間を取らせれば、あとはどれだけ働かせてもよいとするもの。ロは勤務時間の上限を定めればどのような時間帯にどれだけ働せてもよいとするもの。ハは1年で104日、4週間で4日以上の休日を確保すれば後はどれだけ働かせてもよいとするもの。

大切なことなので繰り返しますが、上記全部ではなく「いずれかに該当する措置」を取ればよいということです。実際にそれぞれどの程度の「無賃業務」が発生するかは以下記事をご参照ください。

【余白が怖い】残業代ゼロ法案を図示するとこうなる(渡辺輝人) - 個人 - Yahoo!ニュース

特に、イの場合は以下のような働かせ方が可能となることを15年2月の時点で塩崎厚労相が明言しています。


極めて極端な例ですが、これですら合法になると厚労相が国会で明言しているということは忘れてはなりません。「残業100時間の上限規制は?」という声も上がりそうですが、残念ながら残業という概念が適用されないのですからそんなものは関係ありません。

これが「残業代ゼロ法案」「定額働かせ放題法案」と呼ばれる所以です。

◆成果主義なら長時間労働しなくてもいいのでは?
「でも成果主義になるんだし、さっさと成果を出せば定時より早く帰れてお賃金もいっぱいもらえるんじゃないの?」という疑問もあるかもしれません。しかし、残念ながらこの法案のどこにも成果主義になるという記述は一切なく、どのような成果主義による賃金支払いを義務づける制度の導入も記されていないのです。

ゆえに「働いた時間ではなく成果に対して給料が払われる」と考えるのは単なる希望的観測、もしくはそう思わせたい側の印象操作に過ぎません。

つまり固定給のまま過大な業務を割り当てられ、上記のような長時間労働に従事させられる可能性もありますし、逆に成果主義となった場合は成果が出たりノルマを達成するまで延々と際限なく仕事をさせられ続ける可能性もあるということ。

現行法でも「歩合制」としてなんの問題もなく導入可能な成果主義を義務づけることもなく、単に労働時間の規制を外すだけの法案だという事を忘れてはなりません。

◆対象は年収1075万円以上の専門職だけでは?
まず、「年収1075万円以上」というのはあくまで政府案の数字であって、法案に書き込まれた数字ではありません。法案に書き込まれているのは年収が「基準年間平均給与額の三倍の額を相当程度上回る水準として厚生労働省令で定める額以上であること」という文言。


これがだいたい年収1000万円以上とされているのですが、問題なのは「厚生労働省令で定める額以上」というところ。法案成立時に年収1075万円だったとしても、それ以降は国会で法改正をすることなく、厚生労働省の省令によって対象となる額が変更してしまえるのです。

<残業代ゼロ・過労死促進法案>他人事ではない!~年収1075万円は絶対に下げられる5つの理由(佐々木亮) - 個人 - Yahoo!ニュース

実際にこの法案を推進する経団連は年収400万円以上にまで対象者を増やすべきだとしており、気がついた時には「新しい判断」によって年収要件が大きく引き下げられていたという事態も十分に考えられます。これを裏付けるように2005年の経団連の提言では、この働き方の対象とする年収要件を以下ように説明しています。

当該年における年収の額が400 万円(又は全労働者の平均給与所得)以上であること。

ホワイトカラーエグゼンプションに関する提言(2005年)より引用


また、対象となるのは専門職とされていますが、法案には「高度の専門的知識等を必要とし、その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められるもの」とされており、極めて抽象的。

こちらも対象業務は「厚生労働省令で定める」となっているため、法改正なしで拡大する可能性は十分にあります。気がついたらあなたの職場でこれまで以上のデスマーチが繰り広げられていた、ということになるかもしれません。

◆まだ奴は死んでいない
裁量労働制の拡大に関する不適切データ問題で、そちらにばかりスポットライトが当たって「高度プロフェッショナル制度」に関してはほぼスルーされているのが現状です。

ですが、ご覧頂いたように「高度プロフェッショナル制度」は「裁量労働制の拡大」と共に「残業代ゼロ法案」の双璧を担う極めて危険な制度。「裁量労働制の拡大」の今国会提出断念でほっとしている人もいるかもしれませんが、まだ半分はしっかりと無傷で生きています。


ブラック労働の合法化を招く「残業代ゼロ法案」は長時間労働を蔓延させ、過労死や過労自殺を筆頭とした健康被害を拡大させる上、働いた分の賃金すらまともに支払われず、合法的な労働であるが故に労災認定も下りにくくなるという、働く人にとってはこれまで以上の地獄をもたらすもの。

即座に、そして永久に葬り去るしかありません。

東京新聞:裁量制 今国会断念 働き方法案 首相、削除を指示 :政治(TOKYO Web)

裁量労働制はなぜ危険か――「働き方改革」の闇
今野 晴貴 嶋﨑 量 編
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