「今は食べるのに困る家はない。こんなに素晴らしい幸せな国はない」自民・二階幹事長の「失言」を検証してみた

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脊髄反射で批判するのは簡単ですが、実際の日本の状況はどうなっているのかしっかり検証してみましょう。詳細は以下から。

◆二階幹事長の発言が炎上
自民党の二階俊博幹事長が6月26日に東京都内で行った講演での少子化問題や貧困問題に関する発言が、「政権与党の幹事長なのに日本の実態を全く分かっていない」と大きな批判を浴びています。

ですが、果たしてそうなのでしょうか?発言を丁寧に読み解いてみます。こうした「失言」でよくあるのが、発言の一部だけを切り取って挙げ足取りをするというもの。今回はそういったことはなかったのでしょうか?

これに関しては荻上チキ氏がTBSラジオ「荻上チキ・Session-22」の中でこの問題を取り上げ、文字起しを行った記事【音声配信・文字起こし】自民党・二階幹事長の「子どもを産まないは勝手な考え」発言を検証を掲載していましたので、こちらを参考にしています。

◆第二次世界大戦前後の歴史的事実を無視
そちらを見ると、二階幹事長が戦前、戦中、戦後という「みんな食うや食わず」の時代と現代を対比させて語っていることが分かります。

そして当時の事を「そういう時代に、『子どもを産んだら大変だから、子どもを産まないようにしよう』といった人はない」と述べ、現代の「『子どもを産まない方が幸せに送れるんじゃないか』と勝手なことを自分で考えて」いる人を対比して非難しています。

ここで押さえておかなければならないのは、戦前、戦中に関しては大日本帝国が「産めよ、殖やせよ」というスローガンで人口増強策を行っており、1941年には「人口政策確立要綱」を定め、「1家庭に平均5児」を求めていたという事実。

当時の朝日新聞は自己本位の生活を中心にし、子宝の多いことを避ける都会人の多いことは全く遺憾至極であるという、二階幹事長の今回の発言そっくりの論調でこの政策を語っています。

つまり戦前、戦中は国策として子供を産むことが奨励されていたという事実があり、当時の人々が産みたいから産んでいたといった単純な話ではないということです。

また戦後には日本を含めた世界各国でベビーブームが起こりましたが、これは長く続いた第二次世界大戦という戦争の脅威が消滅し「安全かつ平和に出産、育児を行えるだろう」という当時としてはこの上ない「未来への希望」があったからこそ起こったものです。

これらのことから、二階幹事長の第二次世界大戦前後との対比にはまったく意味がないどころか、大日本帝国の国策として行われた人口増強策を与党幹事長が擁護しているように見えるという、極めてグロテスクな構図が浮かび上がってしまいます。

当然ながら自身が結婚するか、子供を産むかどうか、世帯として子供を持つかどうかは、それぞれの人生の自己決定権に関わる極めてセンシティブな問題であり、国が子供を産まない人を責めていいような話ではありません。

ですが、そうした問題に対して「この国の一員として、この船に乗っているんだから」という「挙国一致」と「滅私奉公」を悪魔合体刺せたような発想がポロリと漏れている事は非常に象徴的です。

◆では現代日本の育児問題はどうなっているのか?
二階幹事長は現代人が「子どもを産まない方が幸せに送れるんじゃないか」と考えることを勝手だと批判しています。

しかしBUZZAP!で繰り返し問題提起してきたように、この5年半の安倍政権下で現代日本の出産や育児、教育に関する状況は親となる人にとって極めて苛烈なものとなりました。何が行われてきたのかを振り返ってみましょう。

・高校無償化や子ども手当の縮小および廃止、「軍事費に回すべき」と主張も
まずは第2次安倍政権発足前、民主党政権が行った高校授業料の無償化を「理念なき選挙目当てのバラマキ」と批判して2014年に廃止。910万円の世帯年収の所得制限を掛けて高等教育無償化の理念を大きく後退させてしまいました。

また、民主党政権のおこなった子ども手当に対しても2010年の保守系雑誌「WiLL」での対談で子育てを家族から奪い去り、国家や社会が行う子育ての国家化、社会化だ。これは実際にポルポトやスターリンが行おうとしたことだと批判して廃止に追い込んでいます。

実際に稲田元防衛相は民主党政権時代に2011年3月の雑誌「正論」での対談で財源のない子供手当を付けるぐらいであれば、軍事費を増やすべきと述べていました。

今、防衛費は約4兆6800億円、22年度予算でGDPの1%以下です。民主党が21年衆院選で約束した子ども手当の満額にかかる約5兆5000億よりも少ない。この子ども手当分を防衛費にそっくり回せば、軍事費の国際水準に近づきます。自分の国を自分で守ることを選ぶのか、子供手当を選ぶのかという、国民にわかりやすい議論をすべきでしょうね。

【参院予算委詳報】蓮舫氏「逃げないで」「恥ずかしくないですか」「気持ちいいぐらいまでの変節」と安倍首相や稲田朋美防衛相を猛口撃 - 産経ニュースより引用)


・子どもの貧困対策は民間に丸投げ、子育て給付金も廃止
その後も特に育児や教育の分野で安倍政権の方針は少子化対策とは真逆に走り続けます。

子どもの貧困対策として、安倍首相らが発起人となって2015年10月に立ち上げられた民間基金の「子どもの未来応援基金」は2ヶ月でたったの300万円しか寄付が集まらず、国の未来の掛かった問題なのだから国が責任を持って対処すべきだという大きな批判が上がりました。


子どもの貧困対策については2016年にもツイッターで「日本の未来を担うみなさんへ」という安倍首相のポエムが掲載され、その中でも行政府の長としてなんら子どもへの約束を行わず、むしろ「こども食堂でともにテーブルを囲んでくれるおじさん、おばさん」を始めとした民間人に子どもの手助けを丸投げしたことにも批判と落胆の声が溢れました。


また、前回の消費税増税に関して行われた軽減税率の議論の中では、その軽減税率の財源1000億円をひねり出すために「子どものいる低所得者世帯への給付を削減すること」が提案され、さらには軽減税率が決まった途端に2014年の消費税8%への増税にともなって導入された子育て給付金も2016年で廃止されてしまいました。

その後2016年5月には安倍首相が伊勢志摩サミットで「リーマン・ショック級」の事態が発生したと主張したために増税は延期されましたが、消え去った子育て給付金が復活する気配はどこにもありません。

・待機児童問題は未解決、小中学校の教師も削減、大学の学費問題は深刻化
教育についても現在進行形で深刻な事態が起こっています。保育園落ちた日本死ね!!!!ブログに始まる待機児童問題、その原因となる保育園不足と低賃金低待遇に由来する保育士不足は未だに解消されていません。

小中学校においても、2017年7月にはNHKが全国の公立の小中学校の教員数が、2017年4月の時点で定数よりも700人以上不足していること、そして一部の学校で計画どおりの授業ができなくなっていることを報じています。それでも歳費削減のために小中学校の教師数の万単位での削減を求める方針は変わっていません。


大学に目を転じれば、国立大学の学費は現在でも非常に高額になっていますが、今後も2030年頃までに40万円近く値上げされる方針です。

また、奨学金を装った学資ローンによって大学を卒業した若者が数百万円の負債を背負わされる問題について、ようやく2017年になって給付型奨学金の創設に重い腰を上げましたが、財源として国庫からの積立金に加えてなぜか民間からの寄付を財源に運用することが盛り込まれまれています。

Photo by vera46

・非正規雇用拡大および長時間労働を合法化、若者の生活をより貧しく不安定に
さらに、子育て・教育を始めるスタートラインに至るための重要なプロセスである恋愛・結婚・出産に踏み切れないのは若者の貧困化が大きな理由であるという調査結果がでています。

Photo by Philippe Milbault

恋愛をして結婚・出産に至るには大きな責任が伴いますし、一定のお金と将来的な見通しも必要です。つまり「ずっと非正規雇用のままで突然雇い止めされたら?」と考えながら責任ある結婚という行為に踏み出すのは難しいですし、「ブラック企業で月に150時間以上サビ残させられて休みも取れない」という状態で婚活をするのも無理な話。

結婚・出産が可能な世代が将来性のある仕事に就き、恋愛ができるだけの十分なお金と時間を持てるような社会環境を整備する必要があるはずなのですが、残念ながら低賃金が蔓延する非正規雇用4割を超え、2017年3月には過労死ライン超えの残業100時間が合法化され、ついには今国会で残業代ゼロで働かせ放題となる高度プロフェッショナル制度までもが強行採決されようとしています。

このように安倍政権が、国民が恋愛から結婚に至り、出産し、育児して子供を大人まで育て上げるという全プロセスを、政治レベルで極めて困難なものへと変貌させていることが分かります。

これを育児先進国として知られるフィンランドの「ベビーパッケージ」を筆頭とした取り組みの数々と比較してみると、そのあまりの違いに唖然とさせられるほど。


政権与党がするべきなのは国民に「子供を産め」と求める事ではなく、子供を産みたい人がより産みやすく、育てやすい制度や環境を整える事のはずです。

5年を超える長期政権を維持しつつも実効性のある少子化対策を打ち出すことができず、逆に国民を「勝手だ」と批判する事はむしろ政権与党の「甘え」であり、現在の少子化の進展は安倍政権の「自己責任」と言わざるを得ません。

◆現代日本の貧困問題への無理解
少子化問題と並んで、この講演に関して批判されているのが貧困問題への無理解です。

二階幹事長は「食べるに困る家は実際はない」「『今晩、飯を炊くのにお米が用意できない』という家は日本中にはない」と発言。さらには日本の事を「こんな素晴らしいというか、幸せな国はない」と自画自賛しています。

ですが、いざなぎ景気超えの好景気と言われながらも、世帯収入の中央値はピークだった22年前のバブル崩壊後の1995年の550万円から22年で122万円も減少しています。これは22%超の減少ということで、およそ3/4。


加えて、今年になって日経新聞はG7の中で日本だけが2000年の賃金水準を下回っていることを指摘しています。つまり、多くの日本人は「失われた20年」の中で確実に貧困化しているということ。

実際の貧困という観点から見ても、7人に1人が貧困層に分類され、母子家庭では半数以上が貧困に苦しんでいることは改めて指摘するまでもない現実です。最近の傾向でも山本太郎議員が貯蓄ゼロ世帯が2012年の民主党政権時代から2017年の5年間で大きく増えていることを指摘しています。


また、2018年2月には厚生労働省が2017年11月に生活保護を受けた世帯が7ヶ月連続で増加して164万2971世帯だったことを明らかにしています。2017年8月以降、過去最高を更新し続けており、貧困問題は深刻化の一途を辿っていることが分かります。

二階幹事長の発言は、こうした日本の貧困を巡る現実を完全に無視しています。さすがに政権を担う与党自民党の幹事長という幹部ポストにある人物の認識としてはお粗末すぎるとの評価は免れないでしょう。

そしてその後に続けられた「こんな素晴らしいというか、幸せな国はない」という発言は、もはやディストピア小説「1984年」の真理省のスローガンとしか思えないもの。いったい二階幹事長はどこの世界線のどんな国の話をしているのでしょうか。

ということで脊髄反射を避けてしっかりと読めば読むほどに、今回の「失言」が自民党の中枢にいる人物の言葉とは思えない現状認識に基づいていることがよく分かります。こうした認識のままで政治が行われ続けたとしたら、日本はこの先どんな未来に辿り着くことになるのでしょうか?

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