【コラム】「東京湾うんこまみれ問題」はどれだけ根深く深刻なのか、13年前から指摘も【東京オリンピック】

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東京オリンピックに関して先日から話題になっている、トライアスロンなどの競技の会場ともなる東京湾が「トイレ臭い」という問題。実はあらゆる意味で極めて根の深い、深刻な話でした。

◆東京湾のオリンピック本番会場「トイレ臭い」問題とは
産経新聞朝日新聞が報じたところに寄ると、お盆前の8月11日に行われた本番会場と同じお台場海浜公園で行われた水泳オープンウオーターの東京五輪テスト大会。猛暑の真っ只中であったこともあり、参加選手からは水温や気温、陽射しの強さなどが過酷だと懸念の声が漏れました。

これに加えて物議を醸したのが水質です。東京都や大会組織委員会が大腸菌類の流入を抑制するためにポリエステル製の水中スクリーンをコースの外周約400mに設置したものの、「正直くさい。トイレみたいな臭い」などと異臭を指摘する声が続出しました。

(編集部注:画像はイメージです)

来年には東京オリンピックの本番で、世界中から集まったトップアスリートたちが東京湾のこの会場で泳ぐわけですが、トイレ臭いとはいったいどういうことなのでしょうか。

原因と現在に至る経緯を振り返って見ると、小手先ではどうにもならない極めて深刻な問題が浮かび上がってきました。しかもこれ、人災です。

◆東京23区の大部分で採用されている「合流式下水道」の問題
この問題を知るために、まずは戦後日本のし尿の歴史を見直してみましょう。厚生省が(恐らくは昭和34年前後に)監修した「し尿のゆくえ」という極めて貴重で優秀なドキュメンタリー映画が作られています。

当時は川や海へのし尿の投棄が日常的に行われており、寄生虫に加えてチフスや赤痢といった伝染病の蔓延など、衛生に関する非常に深刻な問題であった事がわかります。

とはいえ出来が良すぎるため食事中は「絶対閲覧禁止」です。この作品がモノクロであることを天に感謝するレベルですので、心してご覧ください。


現在は、日本のほとんどの場所でこのドキュメンタリー中盤で理想として語られる「水洗トイレから下水に流す」という方式が採用されています。

もちろん東京でもこの方式が採用されているものの、東京都下水道局によると、東京都の区部の約8割では、汚水と雨水をひとつの下水道管で集める古いタイプの合流式下水道という仕組みが採用されています。

この合流式下水道では、家の屋根や道路などに降った雨水を流す雨水管とトイレの水を含む生活排水を流す汚水管が別れておらず、いずれも同じ合流管に流れ込みます。


晴天時や一定量までの雨の日は、この合流管からの下水を水再生センターで沈殿処理と生物処理によって処理した後、消毒・放流します。ですが一定以上の雨が降った際は、街を洪水から守るために汚水と雨水の混合した下水は簡易処理のみで河川や海に放流されてしまいます。


上記映画でも言及されていた衛生や健康の問題、また洪水の起こりやすい関東平野での治水という観点から、東京では下水道の整備が急務となり、コストの安い合流式下水道が採用されてきました。

現在は雨水と汚水を分ける分流式下水道の採用、切り替えなども行われているようですが、残念ながら2020年までに切り替えることは不可能です。

なお水再生センターでは、塩素剤等の薬剤で大腸菌等を消毒して放流しているとされていますが、公益財団法人東京都環境公社東京湾の水質汚濁 -雨天時負荷が水質へ及ぼす影響-という研究では、大雨後に多数の糞便性大腸菌が検出されたことが報告されています。

つまり誇張でもなんでもなく、ゲリラ豪雨や台風のような大雨が降った後に東京湾は文字通りの「うんこまみれ」状態になってしまうのです。

なんでそんな大切なことが分からなかったの?という疑問も出てきそうですが、実は以前から分かっていました。

◆「東京湾うんこまみれ問題」はずっと前から指摘されていた
大雨が降ると東京湾に糞便性大腸菌が流れ出すという問題は、決して今回の東京五輪テスト大会で判明したものではありません。

上記の東京湾の水質汚濁 -雨天時負荷が水質へ及ぼす影響-は2006年の研究発表資料ですし、国立環境研究所の2006年の公開シンポジウムでも雨が降ると東京湾はどうなるか? -降雨後の水質変化-の中で糞便性大腸菌が降雨時に「平水時の100~1万倍くらいまで高く」なることが指摘されています。

そしてこの問題は、2013年の東京オリンピック開催決定直後に主催の東京都にもしっかり認識されていることが報じられています。

スポニチは2013年9月27日の記事で、当時の猪瀬直樹東京都知事が定例記者会見で、東京オリンピックのトライアスロン会場となるお台場海浜公園周辺の海水が「大雨の時に大腸菌が多いことがある」と述べていることを伝えています。

猪瀬知事(当時)はオリンピック開催までに下水道施設を改善して対処する考えを表明、「東京都はほぼ完璧に対策を取る。上流の県の水もきちんとやっていただきたい」として水質改善に向けて政府に申し入れる意向を示していました。

またこの問題は、2017年7月に小池都知事も出席した都の幹部会議でも「雨が降った時が課題。対策を考えないと」と議題に上がりました。

この問題を報じた朝日新聞の記事ではお台場海浜公園では大腸菌が増えて、泳げる水質を定める国の「水浴基準」を満たさないことがあるため、ふだんは遊泳禁止。14年の都環境科学研究所の調査では、雨が3日間降らなかった後は基準をクリアしたが、大雨の直後は大腸菌がその時の約100倍に増え、基準を超えたと指摘しています。

この問題について長く取り組んでいる港区の榎本茂区議会議員によると、平成24年(編集部注:2012年)度だけでも187万7200平方メートル、実に東京ドーム1.5杯分の未浄化下水が運河に放水されましたとのこと。

日刊ゲンダイの記事によると、榎本議員は2014年9月の港区議会定例会では「私もNPOの代表をしていた平成19年(編集部注:2007年)に、このお台場でカキを使った大規模な水質浄化実験を提案し、お手伝いをしたことがあります。宮城からいただいてきたカキは、残念ながら1年を待たずして死滅してしまいました。理由の一つに挙げられたのが、毎月何度となく流れ込んでくる未浄化の生活排水によるものです」と指摘しています。

また2017年5月13日に榎本議員が「ほぼ山手線の内側エリアのトイレ台所の汚水が雨水と共に、レインボーブリッジの袂から、塩素を混ぜただけの状態で放流されている」としてFacebookアカウント上にアップした動画での茶色く汚濁した水はかなり衝撃的です。


榎本議員はここで「東京都下水道局は塩素で大腸菌は死んでいると言うが、港区の雨天時の水質調査をみても、大腸菌は死んでいないし、この放流されている水質が「水質汚濁防止法」の排水基準や、より厳しい上積み条例である「東京都環境確保条例」の基準を満たしているとは到底思えない」と指摘しています。

つまり、少なくとも2006年の段階では問題が明らかにされており、東京オリンピック開催決定時点の2013年にも当時の都知事が問題を認識し、現在の小池都知事になった2017年にも問題として把握されていたということ。

ですが開催まで1年を切った現時点でも東京都の対策が「ほぼ完璧」の域に至っていないことは8月11日に証明されたとおりです。

◆本当にここでオリンピックやって大丈夫なの?
さてこんな状態の東京湾で、本当に東京オリンピックのトライアスロン競技を開催することはできるのでしょうか。

上述したように、東京都や大会組織委員会は大腸菌類の流入を抑制するためのポリエステル製の水中スクリーンをコースの外周約400mに設置しています。東京オリンピック本番ではこのスクリーンを3重にするとのこと。

東京都が2018年夏にコースそばに膜を設置して水質を調べたところ、3重の膜の内側で大腸菌類は基準値を下回っていたものの、膜の外は調査した22日間のうち5日間で基準値を超えていたとされています。

大雨の後に糞便性大腸菌が大量に検出されても、1日程度で急減することは東京湾の水質汚濁 -雨天時負荷が水質へ及ぼす影響-でも示されているとおり。

朝日新聞は大会組織委担当者の組織委の担当者は膜の設置で水質の安全は担保できる。あとは大腸菌が流れ込む原因となる大雨や台風が、本番で来ないことを祈るのみという言葉を紹介しており、運頼みという状況であることが分かります。うんこだけに。

実際に8月17日に開催されたパラトライアスロン・ワールドカップでは大腸菌による水質悪化でスイム抜きのデュアスロンとなりましたが、翌18日には国際トライアスロン連合基準で最悪の「レベル4」が「レベル1」まで改善されたため、トライアスロン・世界混合リレーシリーズ大会は予定通り実施されています。

なお、会場となるお台場海浜公園では毎年夏にお台場海水浴「お台場プラージュ」が10日ほどの期間限定で開催されています。台風10号の襲来を前にした8月14日の水質の動画が撮影されていますが、前日からの降雨がほとんどない状態です。

話が戻りますが、雨が降らなければそれで解決という話ではありません。水質は基準をクリアしていたとしても、例えば貴田裕美選手はテスト大会時に「水温も気温も高いし、日差しも強くて過酷だった。泳ぎながら熱中症になるんじゃないかという不安が拭えなかった」と述べています。

また野中大暉も「他の会場と比べても暑い。脱水の心配もあるので、水分補給とかを工夫をしていかないと」と話すなど、晴れた場合は水温、気温、陽射しなどで熱中症の危険が発生するという、まさに前門の虎後門の狼状態となっています。

国際水連のマルクレスク事務総長が水温の問題について「最も大切なのは選手の健康。水温の状況を見ながら5時、5時半、6時、6時半と開始時間を変更する可能性もある」と述べていますが、こうなるとまた別の問題が発生します。

それは先日BUZZAP!が報じて大きな反響を得た、東京五輪ボランティアが終電で現場に行かされ、徹夜の交流で士気を高めさせられるという問題です。海辺の炎天下での徹夜明けのボランティア作業が過酷なことは、改めて指摘するまでもありません。

この会場でトライアスロンを開催する以上、どうやっても誰かが過重な負荷や負担を強いられるという、いわゆる無理ゲー状態となっていることがよく分かります。

そもそもうんこまみれの東京湾で海外のトップアスリートを泳がせることが日本の「オモテナシ」なのかという疑問もありますが、トイレを素手で掃除する事を美徳とする日本人にとっては、これも滝行のような「精神修練の場」ということになるのでしょうか。

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