【コラム】あいちトリエンナーレの補助金支給撤回は何が問題なのか、反応をまとめてみた

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検証委員会が「条件が整えば再開すべきだ」と中間報告案をまとめた途端の補助金不支給の決定に多くの批判が噴き出しています。いったい何がどのように問題なのでしょうか。詳細は以下から。

◆あいちトリエンナーレ「表現の不自由展」の再開を巡るいきさつ
メディアアクティビストの津田大介氏が芸術監督を務める国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」。

その一部である企画展「表現の不自由展・その後」の展示作品に対して名古屋市長や大阪府知事、大阪市長、官房長官を筆頭に与党政治家らが強く反発。加えて京アニ放火殺人事件を思わせるガソリンテロ予告や脅迫までもが発生したことにより、わずか3日間で中止に追い込まれていました。

特に大きな反発を招いたのは、韓国の元従軍慰安婦を象徴した「平和の少女像」や昭和天皇の写真が燃えているかのような演出をされた作品など。前者ではBUZZAP!がこれまで歴史戦絡みで指摘してきた自称保守界隈の主張が主に繰り返され、後者に関しては「不敬罪」「御真影」といった戦後日本では耳慣れない言葉が飛び交う事態となっていました。

そうした中で、愛知県が設置した検証委員会は9月17日に山梨俊夫座長は「丁寧な解説と展示方法が採られていれば、安全に展示し得た」と指摘、25日には「条件が整い次第すみやかに再開すべきだ」という中間報告案をまとめていました。

◆補助金支給撤回の奇妙な理由
ですがその翌日の9月26日、文化庁があいちトリエンナーレに補助金を支給しないことを決定。文化庁は4月にあいちトリエンナーレを「文化資源活用推進事業」とすることを内定して補助金約7800万円を支給する予定でしたが、これを撤回しました。

一部では「補助金不支給」と称されていますが、大村愛知県知事は「4月25日に文化庁長官名で採択の通知を頂いている」と述べており、あくまで補助金の支給撤回です。

萩生田文科相は会見で「文化庁に申請のあった内容通りの展示が実現できておらず、継続できていない」ことを理由として述べています。


法的根拠としては補助金適正化法(補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律)であると明言しており、文科相が支給を撤回できる場合は同法10条の2に以下のように定められています。

各省各庁の長が前項の規定により補助金等の交付の決定を取り消すことができる場合は、天災地変その他補助金等の交付の決定後生じた事情の変更により補助事業等の全部又は一部を継続する必要がなくなつた場合その他政令で定める特に必要な場合に限る。

補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律より引用)

これは極めて不思議な話で、表現の不自由展が中止になったのはテロ予告や脅迫を含むメール、電話が殺到したためであり、大地震や台風、洪水などの天災地変のせいではありません。

「天災地変その他」だから天災地変じゃなくてもセーフという意見もありそうですが、そうするとまた別の問題が出てきます。

◆補助金支給撤回は「テロ・脅迫支援活動」と言わざるを得ない
「表現の不自由展」はテロ予告や脅迫を理由に観客らの安全を守るために展示を中止しており、こうした理由での展示中止をもって補助金の支給を撤回する事は、テロリストや脅迫犯に想定以上の大勝利をプレゼントすることになってしまいます。

安倍首相は2015年にイスラム国が邦人2人を拉致した事件に関して決してテロに屈することはないと明言していました。本件でも警備の強化やテロ予告犯、脅迫犯の取り締りで展示を続行する事が「テロに屈しない」姿勢だったはずです。

憲法の保証する表現の自由がテロに屈する結果となっただけでも日本の対テロ戦略の崩壊なのですが、補助金の支給まで撤回するのはまさに「盗人に追い銭」です。

これではテロリストや脅迫犯に「気に入らないアートや美術展に補助金が出ていたら、テロ予告や脅迫で潰せば補助金も撤回されて大勝利!」というアイディアを懇切丁寧に教えることになってしまいます。

また文化庁は申請者である愛知県は、開催にあたり、来場者を含め、展示会場の安全や事業の円滑な運営を脅かすような重大な事実を認識していたにもかかわらず、事実を申告することなく、文化庁から問い合わせを受けるまで事実を申告しなかったとも指摘していました。

ですが、京アニ放火殺人事件が日本犯罪史上最悪の大量殺人事件である事からも分かるように、ガソリンを使ったテロの危険性が広く一般に認識されたのは今年7月の事件後のこと。

4月の段階では、展示内容から少なからぬ抗議は見込めたとはいえ「来場者を含め、展示会場の安全や事業の円滑な運営を脅かすような重大な事実を認識していた」と考えるのはさすがに無理筋です。

◆補助金支給撤回の問題点はどこにあるのか
もちろん、この補助金支給撤回の問題点は上記のテロ支援に繋がるという話だけではありません。

これまでも「表現の不自由展・その後」の展示中止に抗議して作品の展示を取りやめたあいちトリエンナーレ参加アーティストは複数いましたが、今回の動きには参加の有無にかかわらず日本のアーティストらからも大きな批判の声が上がっています。


まとめると、ひとつ目の問題としては補助金の交付を盾にした検閲(今回の場合は開催後の事後検閲ということになります)が行われることになるということ。これは憲法21条が保証する「表現の自由」が損なわれることを意味します。

ふたつ目の問題は、検閲が前提になり表現の自由が奪われれば当然アートは萎縮することになります。これは補助金云々の話に限ったことではありません。

中国や北朝鮮のような検閲が存在せず、自由に作品を作れてきた日本の大きなアドバンテージは消滅します。もちろんこうした潮流はいわゆるアートと呼ばれる分野だけでなく、漫画やアニメを含む表現全体に及びます。

みっつ目の問題としては、既に述べたように脅迫やテロ予告でアートから学問までを含む表現を攻撃することが有効だと知らしめてしまうこと。人命優先で展示やイベントを中止することが補助金などの交付撤回の理由になれば、政府がこのような攻撃にお墨付きを与える結果となってしまいます。

実際に日本ペンクラブは会長談話として以下のようなステートメントを公表しています。

文化庁は予定していた「あいちトリエンナーレ2019」に対する補助金を交付しない決定をしたという。理由はどうあれ、これは同イベントを経費の面から締めつけ、「表現の不自由展・その後」を脅迫等によって中断に追い込んだ卑劣な行為を追認することになりかねず、行政が不断に担うべき公共性の確保・育成の役割とは明らかに逆行するものである。

日本ペンクラブ会長談話 「文化庁の補助金不交付決定の撤回を求め、『あいちトリエンナーレ2019/表現の不自由展・その後』のすみやかな再開を期待する」 ? 日本ペンクラブより引用)

今回の補助金支給撤回をもって「表現の不自由展・その後」は完成したという皮肉めいた指摘もありますが、その照らし出した私たちの社会がいったいどのようなものなのか、直視する必要があるでしょう。

【9/27 12:00追記】
文化庁の補助金支給撤回を受けて9/26にオンライン署名サイトChange.orgで文化庁は「あいちトリエンナーレ2019」に対する補助金交付中止を撤回してください。という署名が立ち上がりました。


この署名は極めて大きな反響を得ており、9月27日12日現在で、署名開始から15時間あまりにも関わらず、既に4万5000人の署名が集まっています。

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