和歌山県の「薬物乱用防止啓発まんが」、大麻と覚せい剤を混同しバッシングを容認するなど、いろいろ酷い内容に

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国や自治体はこのようなバッシングを防ぐ役目があるはずですが、薬物乱用防止の抑止力として容認する姿勢を示してしまっています。詳細は以下から。

和歌山県福祉保健部健康局薬務課が作成した薬物乱用防止啓発まんががネット上で物議を醸しています。

内容は未成年者の薬物使用に関するもので、取り上げられているのは現在世界各国で合法化や非犯罪化が進み、医療用の研究も幅広く行われるようになっている「大麻」です。漫画は上記リンクから読めるほか、依頼を受けて執筆した本人がツイッター上でも公開しています。


◆この漫画の何が問題なのか
・大麻と覚せい剤を混同
先にも少し触れましたが、大麻はウルグアイカナダで合法化され、アメリカ合衆国でも州によって医療・嗜好品として合法化が進んでいます。

EU諸国や韓国タイレバノンなどでも主に医療大麻や科学研究のための大麻が合法化され、大麻関連産業も大きな成長を遂げているのが2020年の世界の現状です。


この漫画では大麻は「勉強に集中できる」「食欲がなくなってやつれる」ものとされていますが、集中力が高まるという名目で売られるのは大麻ではなくむしろ覚せい剤の話。


また大麻には食欲増進効果があり、医療大麻では抗がん剤治療などで食欲が減退した人の食欲を回復させるためにも用いられています。「食欲がなくなってやつれる」も覚せい剤の典型的な副作用であり、この漫画は薬物乱用防止を謳いながら当の薬物がどのようなものかすらまともに描けていないことになります。

・バッシングという名の私刑(リンチ)を容認
なにより問題なのは主人公の女子中学生が大麻取締法違反で逮捕された後の描写。ネット上で住所、電話番号、家族全員の氏名などが晒され、家のドアには「犯罪家族」「さっさと引っ越し しばくぞ」「大麻栽培中」などのビラが貼られ、妹は学校でいじめられて不登校、母親はこれらを苦に自殺未遂という、壮絶なバッシングが描かれます。

女子中学生は「私のせいで家族をめちゃくちゃにしてしまった」と嘆き「もう二度と元には戻れない」とつぶやきながらスマホで大麻を再びポチるという謎の終わりを迎えます。

極めて危険なのは、薬物使用が違法であり心身に悪影響を及ぼすというこれまでの主張にとどまらず、バッシングという名のリンチで家族がめちゃくちゃにされるから薬物をやってはいけないという描写になっていること。

これは意図せずともバッシングという私刑(リンチ)を地方自治体が堂々と容認していることになります。


「加害者家族」へのバッシングについては近年大きな問題となっており、ネット上でも息子が人を殺しました…千件以上の「加害者家族」支援から見えたこと」「『加害者家族』はバッシングされてもいいのか。支援団体の代表「家族をいじめても意味がない」などの記事では家族らの受ける壮絶な状況が記されています。

・新型コロナ感染者家族へのバッシングには「人権に配慮した冷静な行動」をお願い
こうしたバッシングが犯罪ですらない新型コロナウイルスへの感染に対しても行われているのは日本人なら誰もがご存じのとおり。

「こんな時期に旅行なんてした奴が悪い」「帰省するなと言われていたのに帰省した馬鹿」などと暴言を吐かれ、家に石が投げ込まれたり落書きをされ、家族もろとも引っ越しを余儀なくされたケースもあります。

和歌山県でもそうしたバッシングは少なからず行われていることが報じられており、薬事課と同じ福祉保健部健康局に属する健康推進課では

新型コロナウイルスの感染が拡大する中、感染した方や治療・対策に携わった関係者及びそのご家族等に対する差別、SNS等において個人を特定する情報や風評被害が懸念される情報の拡散等の事例が起こっています。

感染症に対する不安やおそれを感じ、感染症に関わる人を遠ざけたいとする心理による行動とも言えますが、いかなる場合であっても、差別、いじめ、誹謗中傷等の人権侵害は決して許されるものではありません。不確かな情報や根拠のない噂等に惑わされることなく、県や国等の公的機関が提供する正しい情報に基づき、人権に配慮した冷静な行動をお願いします。

新型コロナウイルス感染症に関する人権への配慮について 和歌山県より引用)

との注意喚起が行われています。

これは和歌山県として「新型コロナ感染でのバッシングはだめだけど、薬物犯は犯罪者だから容認してもいい」と受け取られても仕方のない「ダブルスタンダード」を示していることになります。

◆世界に広がる「ハームリダクション」、実は日本も採用しています
・「ハームリダクション」とはどんな考え方?
また薬物問題に関しては、再犯防止を主目的に「処罰から治療へ」をモットーとする、薬物のリスクを最小化させて健康被害を軽減させるハームリダクションという考え方があります。


薬物問題で常に問われているのは「違法薬物使用者を処罰することがドラッグへの依存の治療に有効なのか」ということです。

刑罰には罪に対して報復をする「応報刑」という考え方だけでなく、犯罪者を更生させて社会に適応させるための処置とする「教育刑」の考え方も存在しています。

そして薬物の使用は(特に何度も繰り返される再犯の場合は)少なからず依存症と結びついていることが想定できます。


そうした違法薬物依存症に陥った使用者に禁固刑や懲役刑を与えることが果たして依存症を治療し、社会復帰させる役に立つのか?これでは「再犯」を繰り返すだけで、必要なのはアルコール依存症やニコチン依存症の患者と同様に脱依存のための治療なのではないか?

このような議論は世界各国で繰り返されており、例えばポルトガルではすべての薬物の個人使用が非犯罪化(合法化ではないことに注意)されています。実際に非犯罪化後には薬物使用者数が減少し、特に薬物使用に関連する死亡事故が大きく減りました。

・日本も再犯防止のために「治療」を重視する方針に
日本でも2017年12月15日に政府が刑務所出所者らの再犯防止推進計画を閣議決定しています。

これは出所者らの社会復帰や更生保護の観点から、覚醒剤や麻薬などの薬物犯を刑務所に入れる代わりに医療機関での治療や民間団体のドラッグ離脱プログラムを活用することを検討するとするもの。

推進計画では、刑事司法と医療・福祉分野との連携の必要性を指摘しており、海外での前例などに基づいて「拘禁刑に代わる措置も参考にしつつ、新たな取り組みを試行的に実施することを含め、効果的な方策について検討を行う」と記されています。

このように日本政府としても、薬物犯を医療や福祉と連携して治療を行い、社会復帰させる方針が既に取られています。


こうした中で、一度の薬物使用で「もう二度と元には戻れない」などと未成年に言わせるのは国の目指す薬物犯への方針とも大きく乖離するもの。

薬物の使用は犯罪であり、逮捕された上にバッシングで自分も家族もめちゃくちゃになって「もう二度と元には戻れない」とされれば、治療や離脱の意志を持っていたとしても社会がそれを認めず、許さないと示すことになり、孤独の中で逃げ場をなくしてゆくことになります。これはまさに本末転倒といえるでしょう。

コカインで逮捕されたピエール滝を支え続けた電気グルーヴの相方、石野卓球の姿勢が大きく評価されましたが、再犯防止に信頼できる家族や友人の存在が大きいことは言うまでもありません。

再犯防止を主眼に治療を行い、社会復帰を目指す方針を取るのであれば、社会からの陰湿で苛烈なバッシングを防ぎ、家族や友人が支えてゆけるサポートを行うのが国や自治体の役目のはずではないでしょうか。

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