【サムソン高橋特別寄稿】これまでのパレードへのリスペクトも、どんな人間にも居場所が見つかる東京レインボープライド2016写真日記最終回
全部のパレードを見送り、充実感(仕事終わった感)でいっぱいになりながら会場へ戻る。新緑のけやき並木をのんびりと歩いてステージにたどり着くと、誰も登場していないのに客席はほぼ満員で湯気が立ち上っているような熱気。パレードも終わったというのになんだろう。
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◆大きく盛り上がったパレード後のイベント
ハフィントンポストから取材を受けました。ハフィのライター宇田川しい氏を「私はあんたをきれいに撮るからあんたは私をきれいに撮るのよ!」と脅迫したのに私は悲惨な結果に……
女の子を頭から丸ごと食べるのかな?と思ったけど愛想よく写真に撮られてました。女装って意外と怖くないんだね
司会お二人の衣装替え。カソリック系女子高の先生と生徒。小原タカキ氏の「ドンキで購入しました」感すごい
◆FTMアイドルグループ「SECRET GUYZ」登場
そこに司会者から紹介があった。ちょうど今日のステージの目玉・SECRET GUYZが登場するところだったのだ。今話題の、FTMのアイドルグループだ。三人が登場すると悲鳴が上がって半分以上の客が立ち上がった。
SECRET GUYZ。ペンタックスの安カメラのオートフォーカスでは動きが追いきれない。誰か僕にK-1を買ってください
SECRET GUYZはももいろクローバーZや市立恵比寿中学を擁するスターダスト所属らしく、元気いっぱいにステージを駆け回る。歌を聞きステージを観るだけだとFTM、元女性とは信じられない。しかし今では珍しいテーマカラーを取り入れたベタさは明らかに80年代の男性アイドル(というか当時ジャニーズの最高傑作だった少年隊)へのオマージュなのだが、考えると今の時代にこういった男性アイドルは、FTMじゃなきゃできないことかもしれない。
もうオリコントップ10に入るほどの人気らしい彼らは大量のおっかけも連れてきて、彼らが終わるとステージから引く人も多かったわけだが、彼らがきっかけでこのイベントに来てLGBTはどんなものなのか知る人も多いのだろう。
◆各国大使や日本の政治家なども相次いで登壇
その後のステージでは来賓として英国大使とアイルランド大使と米国大使が登場。特に、最も知名度のあるキャロライン・ケネディの登場には事前情報を知らなかった者としては驚いた。対外的なレインボープライドの箔付けとしてこれ以上のものはないかもしれない。
英国大使館による和太鼓演奏。女装効果でしばらくおとなしかった私の股間のバチが再び勢いを取り戻す
アン・バリントンアイルランド大使。おいしいシチューを作ってくれそう
幼いころから全世界に存在を知られるキャロライン・ケネディ米国大使。今気付いたけどキャロライン洋子ってキャロラインも洋子も両方名前だったの?(どうでもいい)
インターナショナルスクールPTAのイベントっぽい雰囲気だけどすごいメンツ
イスラエルのゆるキャラ。パレスチナ自治区への姿勢を非難する声をふんわりとやり過ごす
イスラエルのドラァグ・クイーン、タルラ・ボネット。女装を見すぎてどれかどれかわからなくなってきた。DQって様式美とオリジナリティのせめぎあいなんだなと改めて感じる
素人ゲイのアイドルごっこサークル・虹組ファイツ。失笑からのスタートだったのに最近だんだんと完成度が無駄に高くなってきてイラッとする
彼らがまるでそのまま教科書に載せてもいいくらいに三者三様にすばらしいスピーチをした一方で、日本の政治家のスピーチは今回のイベントで数少ないささいな傷のように思えたのは私だけだろうか。それぞれ言っていることに大きな間違いはないように思えたが、他の政治家の政策や態度に批判合戦的なものが見受けられた。単純に、このお祭りでそういうのは粋ではないな、別の場所でやってくれないかな、と思ったのである。
しかしふと、かつてのパレードはそういったいざこざのプロレス的側面が俺にとっては一番の魅力だったではないかと気付いた。そういったメタ的楽しみをするには、レインボープライドはもうすでにまっとうで立派なイベントになっていたのだ。
ここから日本政治家の来賓スピーチ。尿が漏れそうだったけどパレード名物プロレス試合が見られるかと「RIKACO助けて!」と心の中で叫びながら見守る
稲田朋美のメッセージをこの格好で読み上げたオナン・スペルマーメイド様は本日のMVP
稲田メッセージを否定する感じで社民党メッセージを読み上げる小原タカキ氏。女装VSドラえもんの闘いの様相を呈してきた
博報堂出身の長谷部健渋谷区長。あくまで個人的にだが、生理的に深い心の底で信用しちゃいけないアラームがビンビン鳴ってます
膀胱破裂しそうで記憶が飛んでいる御三方。石川大我氏途中で離脱。無念
◆苦難の歴史を乗り越え、これまでのパレードの総決算となった東京レインボープライド2016
そういえば今回のイベントには、これまでのパレードの総決算というか、リスペクトを感じるところもあった。スタッフにもかつての実行委員から戻ってきた人も多いと聞く。
パレードにはかつての発起人の南定四郎氏や2000年にパレードを復活させた砂川秀樹氏も参列したそうだし、ステージの司会には福島光生氏、そしてイベントの公式マガジン『BEYOND』にはマーガレット/小倉東氏がすばらしい文章を寄せていた(以上、人物の並びには特に私意はありません)。初期のパレードで重要な役割を果たした人たちだ。
以前のパレードにかかわった人たちの中にはあまりにもハードな経験のトラウマのあまり「レインボー」とか「プライド」とか「パレード」とかいう単語を聞くと泡を吹いて卒倒する者もいるという凄惨な噂も聞くのだが、彼らも一刻も早くリハビリを果たしてほしいものだ。
会場がこれまでで最高の人口密度になったところで、最後はCHARAのステージ。ファンの実行委員のリクエストにこたえたという曲目はデビューから現在までのキラーチューンばかりで、クオリティの高さは言うまでもない。CHARAは一般撮影は禁止されていたので残念ながら写真は無いが、どのみちあの人混みだと写真を撮ることはできなかっただろう。あまりの人の多さでCHARA本人はちらほらとしか見ることができなかったが、デビューから25年が経ったとは思えないほど変わってないのが印象的だった。
人混みの中で音楽だけ聞きながら、私はデビュー時にどこかで書かれた彼女への評を思い出していた。
「『せつなさ』という日本にしか存在しない感情を伝えることができるアーティスト」
彼女が変わらない、というかエヴァーグリーンなのは当然なのかもしれない。そのCHARAが一番好きだったアーティスト、先日急逝したプリンスの『KISS』に合わせて色とりどりの女装その他が踊る中、パレード参加者もイベント来場者も過去最大数になったことを発表されながら、二日間のステージは華やかに終わりを迎えた。
今や自分以外のゲイと出会うことは、かつてと比べてとてもたやすくなった。ただ、たいていの人はバーやハッテン場やゲイアプリの中の狭い世界に閉じこもるばかりになっただけだと思う。LGBTどころか、同じゲイでも趣味が違うと顔を合わせることすらない。
だから年に一度のこの機会は貴重な場だし、そこでは絵空事でもきれいごとでも平和的で肯定的な気分でいたいと思うし、自然とそういう気分になれる場所だった。
一ヶ月が経って改めてこの文章をまとめながら、どうしても先日オーランドで起こった悲劇を思わずにはいられない。実はゲイだったと噂される容疑者は、どこにも居場所を見つけられずにひどい自爆をしてしまった。彼にこういう場所があればよかったのに、などと安直な言葉は言わないが、今年のレインボープライドは、どんな人間にも居場所が見つけられる、懐の広いイベントになっていたのではないだろうか。
久しぶりに感じたすがすがしい気持ちとともに会場を後にしようとすると、人混みの中で一年半ぶりの友人と会った。お互いすさんだシングルライフを送っていると思っていた彼は超イケメンと一緒に歩いていた。聞くと、一年前から付き合っているという。
「マジぶっ殺す!」
最後の最後でようやく自分らしさを取り戻した私だった。
(文/写真 サムソン高橋)
・サムソン高橋(@samsontakahashi)
ゲイ雑誌「SAMSON」編集部出身のゲイライター。ゲイ雑誌「G-men」などで世界のハッテン場を探訪したコラム「ALWAYS UNPROUD」などを連載後、同じくSAMSON出身でG-menでも連載していた漫画家・熊田プウ助と「世界一周ホモのたび」シリーズ(ぶんか社)などを刊行中。
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