アートとテクノロジーが交差し、融合する最も熱い場所が大阪に生まれようとしています。現場の模様を取材しました。
プロジェクションマッピング、3Dプリンター、ドローン、この数年の間に衆目を集めた新しいテクノロジーは、かつてインターネットがそうであったように、気がつけば身の回りにある当たり前の存在になっていました。
アートは貪欲にそれらのテクノロジーを取り込んで自らの表現活動の手段として用い、かつてはあり得なかった表現が可能となり、時にはテクノロジーに新たな息吹を吹き込んできました。そして発達するインターネットはそれらの表現を個人が全世界に向けて行うことを可能とし、多くのハードルが消えてなくなって行きました。
この流れの中でアートはデザイン、メディア、エンターテインメント、広告などとの境界を乗り越え、浸食してゆくことになります。仮想現実(VR)、拡張現実(AR)、人工知能(AI)、まだ目新しいこれらのテクノロジーも既にこの渦の中で混じり合い、浸食し合い始めています。これらの交差点を指すのがアートサイエンスとよばれるもの。
ウルトラテクノロジスト集団、チームラボと大阪芸術大学がはまさにこのアートサイエンスの体現として2016年12月24日から2017年1月9日まで大阪市堂島の「堂島リバーフォーラム」で「Music Festival, teamLab Jungle」を開催。ここには大阪芸術大学の芸術学部の在学生70人が運営や音響、演出のサポートスタッフとして参加しています。
「Music Festival, teamLab Jungle」はこれまでアーティストやDJといった表現者と観客の境界を取り払った全く新しい形の「参加型」音楽フェスティバルとして構想されました。
音楽が会場に鳴り響く中、壁の全面を埋め尽くしたムービングライトを縦横無尽に使ったかつてない規模の光と映像による演出によって、1秒ごとに変わりゆくめくるめく幻想的な空間が作り出されます。
参加者が光に触れるとセンサーが反応し、光が跳ねたり音楽が鳴ったりとインタラクティブな反応が起こり、参加者自らの動きによってその場の映像と音楽が構築されていきます。こうした仕組みにため「Music Festival, teamLab Jungle」には特定のアーティストが存在せず、参加者全員によって形作られてゆきます。もちろん二度と同じものが作り上げられることはなく、毎回違った「フェスティバル」がそこに生まれることになります。
いったいその現場はどうなっているのでしょうか?12月23日にはアートサイエンス学科に入学予定の高校生らを招き、内覧会が行われました。その様子をレポートします。
まずはチームラボ側からのブリーフィングが行われます。「答えのないもの」を作り続けてきたチームラボが挑戦するのは既存のフェスティバルとは一線を画した表現であり、その表現の中核にはソフトウェア、ハードウェア両面での革新的なテクノロジーによる作り込みがあります。
今回の演出の中でもそうした挑戦は随所に盛り込まれており、主に見るものから参加者が自ら大きく演出に関わるものまで幅も広く設けられています。テーマがジャングルということで、会場への道は植物で彩られていました。
こちらが会場の内部。非常に天上の高いホールで、壁の全面にムービングライトが埋め込まれており、これらを制御した演出が行われます。
その演出の模様の一部がこちら。ここでは光はただ当てられ、照らすだけの存在ではなく、空間を彫刻し、構築していきます。
演出それ自体への関わりはもちろん、演出の中で参加者を誘導し、演出への参加を導くのが演出サポートの学生たちの大切な役割のひとつです。
動画で見てみるとこんなことになっています。これは光の彫刻のひとつ。
Music Festival, teamLab Jungle - YouTube
インタラクティブな演出。光に触るとセンサーが感知し、光線が跳ね上がっていきます。
Music Festival, teamLab Jungle 2 - YouTube
こちらはチームラボの作成したチームラボボール。まさかの弾幕系演出で、ボールをトスしていると汗だくになってしまいます。そして非常に楽しいです。このようなギミックの存在が観客をただの受け手からインタラクティブな参加者へと変えていきます。
Music Festival, teamLab Jungle 3 - YouTube
チームラボ代表の猪子寿之氏はこの「Music Festival, teamLab Jungle」を既存の音楽フェスティバルと違う非日常的で人生でこれまでなかったような新しい体験のできる場所として作り上げてきました。猪子氏はそうした体験は本来人間にとって一番楽しく、考えを広げるようなことだと考えます。
今回、ある意味音楽フェスティバルというイメージとはかけ離れたこうしたイベントを敢えて音楽フェスティバルとして作り上げた意図は、アートというよりかしこまったイメージではなく、自由な気持ちで自分の身体で動き、遊び、楽しむという体験をして欲しかったからとのこと。
空間が変化したりユーザーがインタラクションするといった動的な表現が今後は増えていくとの展望の中、チームラボとして今後も学生らと共にこうした取り組みは行っていくとのことで、社会からの要望があればダンスやフェスティバルのシーンともコラボレーションし、新しい表現を行っていきたいとしています。
非常に面白いお話として、これまでチームラボ側はダンスやフェスのシーンからのアプローチを待っていたけれど、どこからも要望がないので今回のような音楽フェスティバルを自分たちでやってしまったとのこと。
そこで敢えて音楽フェスティバルの「常識」からはかけ離れた実験的で極端な例を提示することで、今あることとの間で幅を広げることを狙っています。実に挑戦的で、ある意味挑発的な試みですらあることが猪子氏の口から飛び出した訳ですが、実際に内覧会で体験してみた内容はまさに言葉通り。
既存のフェスティバルにはなかった要素が新たに作り上げられたテクノロジーによって散りばめられており、フェスティバルの楽しみ方自体にも新しいアイディアを投げかけています。ウッドストックフェスティバルを例に挙げるまでもなく音楽もフェスティバルも長年存在してきましたが、今現在の新しい技術があればこそできる表現は確実に存在しており、この現場はそのような表現に溢れています。
単に極端で実験的であるだけにはまったく留まっておらず、既存のフェスティバルと繋がり、高めていけるような要素を随所に感じることができました。これは本当に音楽やダンス、フェスティバルが好きでなければ出てこないような発想の数々です。
そして、このアートサイエンスというアートとテクノロジーの交差点にいち早く反応し、チームラボと前代未聞の空間を作り上げた大阪芸術大学は、大阪芸術大学は2017年度からアートサイエンス学科を開設。チームラボの猪子寿之氏も客員教授として教鞭を取ることが決まっています。
アートサイエンス学科の武村泰宏学科長によると、アートを志す学生とテクノロジーを学びたい学生の両方に対応して基礎的な実力を養成し、それぞれの持ち味を軸足としながら知識やスキルを高め、アート、テクノロジー双方の橋渡しを可能とするような人材の育成を目指すとのこと。
現実の社会の中で既に曖昧になり始めているアートとデザイン、メディア、エンターテインメント、広告などの境界を乗り越え、テクノロジーで繋ぐことのできる人材はこれからますます必要とされていくことになります。
デジタルネイティブ世代はどのようにその現代を捉えようとしているのでしょうか?もしかしたら極めて当たり前のこととして、アートサイエンスを身につけ、体現していくのかもしれません。「Music Festival, teamLab Jungle」ではそんな現場と、新しい世代の姿を見ることができるでしょう。
「Music Festival, teamLab Jungle」は12月24日から正月も含めて1月9日までの開催。昼フェスと夜フェスの2部構成となっており、それぞれ内容が違います。以下が開催情報となります。
大阪芸術大学新設アートサイエンス学科 presents Music Festival, teamLab Jungle
・昼フェス
昼フェスは親子で楽しめる新しい光と音楽の新しいアート体験。同時に「ワークショップコレクション ミニ」(別途参加費要)も開催されます。公演は10:00、12:00、14:00、16:00(12月26~1月3日は無し)の4回で、それぞれ50分となっています。
参加費は当日券が大人1600円、子ども800円。前売り券はこちらの公式HPから確認、購入できます。
ミュージックフェスティバル チームラボジャングル 昼フェス _ Music Festival, teamLab Jungle - Day _ 親子で楽しめる圧倒的な光に包まれる超幻想空間での体験型音楽フェスティバル-昼フェス
・夜フェス
夜フェスは音楽に合わせ、光が演出する幻想的なアート空間の中で踊ったり、音を奏でたりと様々な体験が可能。そして、参加者みんなで創りあげる全く新しい参加型の音楽フェスティバルです。公演は16:30、19:00、21:20の3回でそれぞれ70分。ただし日によって開催されない時間帯があるので公式HPで開催時間を必ず確認してください。
参加費は当日券が4000円。前売り券は同様に公式HPから。12月26日~28日の16:30の回は中高生向けの学割が存在しますので、学生証をお忘れなく。
ミュージックフェスティバル チームラボジャングル 夜フェス _ Music Festival, teamLab Jungle - Night _ 圧倒的な光に包まれる超幻想空間での体験型音楽フェスティバル-夜フェス
・関連記事
アニメとクラブの高次結合、東京ジョイポリスで開催された「リアニポリス」に行ってきました | BUZZAP!(バザップ!)
受け継がれ花開くレイヴカルチャーの殿堂、ポルトガルで開催された巨大野外フェス「Boom Festival」レポート | BUZZAP!(バザップ!)
大阪、中津を盛り上げるべく毎月第3日曜日に開催されている「中津高架下夜市祭」を訪れてみました | BUZZAP!(バザップ!)
「マッド・マックス」の世界でリアルにヒャッハーできる砂漠の野外フェス「Wasteland Weekend」がすごい | BUZZAP!(バザップ!)
【追記あり】改正風営法が施行、クラブの終夜営業が可能となるも地域規制で明暗 | BUZZAP!(バザップ!)