首都圏外郭放水路とはひと味違った巨大構造物がここ、渡良瀬遊水池なのです。詳細は以下から。
先日群馬・栃木・埼玉の「三県境」を訪れた記事は大きな反響を得ましたが、ここまできたらぜひ寄ってみたいのが目の前の渡良瀬遊水池です。
日本初の公害事件を発端として生まれたという思い過去を背負いながら、ラムサール条約にも登録される野鳥の楽園であり、首都圏の重要な治水施設であり、水瓶のひとつとしても機能しています。
ぱっと見はひたすらに続く何の変哲もない草原のように見えますが、そう見えることまでも含めて緻密に計算された人工物だと気付くと、見えてくる景色も全く違ったものになります。
渡良瀬遊水池は群馬・栃木・埼玉と茨城県の4県に跨がる巨大な施設で、もともと3つの河川に囲まれた旧谷中村と呼ばれた地域でした。
地理的な条件からもともと洪水に見舞われやすい場所でしたが、上流にある足尾銅山の鉱毒の影響で森林が失われたこともあり、1890年と1896年に大洪水が発生。もちろんこの鉱毒は渡良瀬川流域全体に及んでおり、谷中村も被害を受けています。
衆議院議員であった田中正造の活動によってこの足尾鉱毒事件は社会問題として広く知られるようになりましたが、大洪水への対策と鉱毒への対策として、谷中村は住民らの反対を押し切る形で廃村となり、この渡良瀬遊水池が作られることになります。
三県境のそばの道の駅かぞわたらせから渡良瀬遊水池を訪れるには、車で県道9号線を5分ほど北上した北エントランスを利用します。9時半に開門し17時に閉門となりますが、入場料などもなく入ることができます。
なお公共交通機関で訪れるのであれば、東武日光線の柳生駅から三県境のそばを通って中央エントランスから入ることになります。
北エントランスから入り、延々と続くまっすぐな道を抜けていくと右手に見えてくるのが「ウォッチタワー」と名付けられた塔です。この塔は「第1調整池」と呼ばれるエリアのほぼ中央に位置していますが、通常状態ではここは池ではありません。
「第1調整池」には渡良瀬遊水池のシンボルでもあるハート型の「谷中湖」がありますが、その北側は「谷中村史跡保全ゾーン」となっており、さらに北には「渡良瀬カントリークラブ」というゴルフ場や「渡良瀬運動公園」と呼ばれる公園もあり、文字通り陸地です。
ただし、ウォッチングタワーはもともと渡良瀬遊水池全域に群生するヨシという植物(夏場の日除けに使う葦簀の原料)のための浄化施設用ポンプの電気室として作られたもの。洪水時に渡らせ遊水池が満水となっても水没しないように高さが16mあります。ぐっとくる外観の無骨なインダストリアル感にはちゃんと理由がありました。
登ってみましょう。
真夏という季節がら、四方は鬱蒼と茂るヨシ原に覆い尽くされています。
この先が渡良瀬貯水池(谷中湖)北水門。ここの水は首都圏の水瓶として利用されています。山間部のダム群よりも大きな2620平方キロメートルという集水面積を持ち、局地的な雨でも貯水することが可能な上、首都圏に近い事から状況に応じた迅速な供給も可能です。
このエリアはヨシ原浄化施設と呼ばれており、渡良瀬貯水池の水をヨシに通す事によって窒素やリンを吸着・沈殿・吸収させ、水質を改善させています。天然のフィルターでの浄化ということになりますね。
ウォッチングタワーの目の前にある橋が西谷中橋。なお、渡良瀬遊水池では毎年3月にヨシ焼きを行って森林化や害虫を防ぎ、ヨシ原の維持を行っています。
ウォッチングタワーを降りて谷中湖畔まで行ってみます。この辺りは子供広場や史跡保全ゾーンなどがあり、駐車場やトイレ、自販機なども完備されているためピクニックにも便利な場所です。とはいえ猛暑のため訪れている人はほとんどいませんでした。
あちらが谷中湖への最短距離のようです。ちょっと月着陸船を思わせる設備があります。
観測塔でしょうか。やはり実用主体のインダストリアル感がたまりません。のどかな自然公園の情景とのミスマッチがなおさらです。
谷中湖です。サイクリングロードが囲っています。
貯水池のため、コンクリートに覆われているのですが、これがまた巨大構造物の趣があってなんとも言えないのです。
波打ち際まで来てみました。
ちょっと泳ぐのはためらわれますが、ウォータースポーツは盛んなようです。また、渡良瀬遊水池内にはスカイダイビングクラブなどもあります。
以前レポートした首都圏外郭放水路が仁瓶勉の「BLAME!」を思わせる巨大構造物だったとすれば、こちらはより水平方向に自然物を主として構築されている辺り、「バイオメガ」後半や「人形の国」に近いでしょうか。
一見自然豊かな公園に見えるこの構造物、気になる方はじっくり時間を取って訪れてみるとよさそうです。
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