整備された観光用では味わえない、古びたローカル感がこの上ない味と足元から這い上がる恐怖を醸しだしていました。詳細は以下から。
吊り橋を渡っている時のドキドキを脳が一緒にいる人への好意と勘違いするという「吊り橋効果」。そんな心理学上の小ネタは知っていても、本当にドキドキするほど怖い吊り橋を渡る機会はなかなかありません。
奈良県十津川村にある「谷瀬の吊り橋」はそんなドキドキを通り越した恐怖を心底味わえるレアな吊り橋なのです。
日本一長い吊り橋として知られるのは静岡県三島市にある全長400mの「三島スカイウォーク」。また日本一高い吊り橋は大分県の九重町にある高さ173mの「九重“夢”大吊橋」です。
ですがこれらはいずれも観光客が入場料を払って楽しむ観光用の吊り橋。「谷瀬の吊り橋」はこれらとは違う、村民たちが生活のために日々使っているガチで実用の吊り橋なのです。
「谷瀬の吊り橋」は戦後復興期の1954年、村人たちが1戸20万~30万円(編集部注:同年の大卒国家公務員の初任給が8700円)という当時としては極めて高額な費用を出し合って作りました。その総額は800万円にも上ります。
それまでは丸木橋を用いていたものの、多発する洪水のたびに流されていたため、思い切った決断をしたとのこと。
BUZZAP!取材班は京奈和道で奈良県五條市に向かい、そこから山深い国道168号線を1時間ほど疾走し、現地に到着しました。
168号線から「谷瀬の吊り橋」の標識を頼りに横道に入ると集落の中に入ります。吊り橋前ではおそらくは谷瀬の方々が駐車場(普通車500円)の案内員として誘導してくれるので心配はいりません。そこから吊り橋までは徒歩で3分程度。
土産物屋や食堂もあります。生活用吊り橋ではあったものの、いつしか「谷瀬の吊り橋」は十津川村の重要な観光名所のひとつにもなっています。
吊り橋の鉄塔がすぐに目の前に見えてきます。
入口はこんな感じ。生活用のため駐車料金以外の入場料などは掛かりません。
入口の隣の展望台から見た様子。下はキャンプ場になっています。全長297.7mで高さは54m。これを渡るのか…ちょっと怖気づきます。
入口ではみんな記念撮影。渡れない人もここなら大丈夫ですからね!
正面に立つと幾何学的なフォルムと渡し板の圧倒的な狭さにさらにたじろぎます。両脇の網の部分を見ると「このはしわたるべからず」→「真ん中渡ればいいんじゃん」という一休さんの逸話を思い出しますね。
なけなしの勇気を振り絞ってその真ん中に踏み出してみるとかすかに揺れ、風が吹き、素直に怖いです。そして思った以上に網の部分がスッケスケです。これ全部板じゃあかんかったん?と思いますが、誰に突っ込めるわけでもありません。
下を見ちゃダメだと視線を上げてひたひたと渡りますが、この板がまた古びていて薄そうなキシキシ感のある踏みごたえなのです。ところどころ張り替えられているものもあり、これふつうに割れたりするんじゃね?という疑念が払っても払っても付きまとい、脇の下に冷たい汗がジワリと沸いてきます。
ですが景色は絶景。白い砂利の河原の十津川の流れが真下を悠々と走っています。どうでもいいことですが、54mというのはウォールマリアより高いんですよね。超大型巨人の目線ぐらいでしょうか。
川べりのキャンプ場も林の中でいい感じですね。今年は新型コロナの影響で予約制になっているとのこと。とはいえ景色をじっくり見られるわけもなく、カメラだけ向けて撮っています。
動画で見るとこんな感じです。あくまで動画なので実際に渡っている時の恐怖はまた別物ですが…。
ようやく真ん中あたりでしょうか。吊り橋なので当然ですが、風がなくとも人が渡っていると少なからず揺れます。真ん中あたりはやはり特に揺れます。とはいえもうここで引き返すわけにもいきません。
ひたすら心を無にしてまっすぐ前だけを見て歩きます。なんだか苦しい時の人生みたいですね。ようやく先が見えてきました。
なんとかギリギリ渡り切りました。ひとつ限界突破したような気分です。足の下に大地があるということがこんなにも安心することなのかと再確認。
反対側から見た「谷瀬の吊り橋」です。これが生活の一部というのは、なかなかにすごいことだなと渡り切ってしみじみと思い知ります。こちらから帰路のマイクロバスでも出したら1000円でも乗る人がいるような気もしますが、残念ながらそんな便利なものはありません。
さて、行きと同じ距離を同じ吊り橋を歩いて帰ります。ですが不思議なことに行きよりも怖くは感じません。
これ20人以上橋の上歩いてね?と思うほどに渡る人が増えており、何度もすれ違いがあり、大柄でふくよかな人がゆっさゆっさと渡っていたにも関わらず、拍子抜けするほど普通に渡ってこれました。やはり限界突破していたのでしょうか…。
ということで、駐車場代500円だけでこの吊り橋を往復できるのは完全にアリです。「有名アミューズメントパークの最新鋭の絶叫マシーン」ではなく、「古い遊園地に昭和時代からずっとあるジェットコースター」という感じの怖さを全身で楽しめます。
吊り橋効果を狙って気になるあの子とのデートで行くのもよさそうですが、自分が先に腰砕けにならないよう、気合と根性が必要になります。
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