坂口安吾の推理物をアレンジした探偵奇譚「UN-GO」の魅力


坂口安吾の著作の中から、探偵を中心に据えた推理物シリーズ「明治開化 安吾捕物」を下敷きにしてアレンジしたテレビアニメ「UN-GO」が現在放送されています。このアニメを一言で表すとするなら「大人向け名探偵コナン」。普段アニメを見ない人から安吾ファンまで広く楽しむことのできる内容で、1月の放送終了までにぜひ一度見てほしい作品です。



「UN-GO」は、探偵・結城新十郎が相棒(バディ)の因果と共に事件に挑む物語。事件現場には「検事」や「刑事」が顔を出すものの、最終的に解決するのは「探偵」側の役目……という、長年人気を誇っている推理物である「名探偵コナン」のようなお約束を踏襲した展開を見せつつも、SF風の設定などが独特のアクが効いているため、話が進むごとにぐいぐいと引き込まれてしまいます。

近年のテレビアニメ作品の原作として、ライトノベルをはじめとした若者向けの文芸作品が選ばれることはよくあります。しかし、坂口安吾のような歴史ある大御所の作品が選ばれることは非常に珍しく、それだけでも異色作と言えると感じます。しかも、大抵の場合は小説の内容をそのまま映像化するパターンが多いのですが、このアニメは坂口安吾の小説を「原案」と位置づけて改変し、独自のストーリーを構成しているところが特徴的です。

公式サイトには事件ごとの人物相関図はあるものの、基本的な人間関係を示している物がなかったので、自前で作ってみました。1話と2話は12月22日いっぱいまでフジテレビの動画サイト上で高画質のものを無料視聴できるので、1~2話の段階で分かる範囲の情報だけを入れた表にしてみました。実は右上のパンダは3話以降の登場なのですが、ある意味一番強烈な印象を残すキャラなのでつい描いてしまいました。

(クリックすると大きくなります)

1話の段階では新十郎&因果、泉&速水、海勝一家(鱗六&梨江)の3グループが各自の思惑で事件解決に動くと考えればおおむね間違いありません。1話で主要な登場人物とストーリー構成をすべて網羅しているため、そのあらすじを簡単にまとめてみました。

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舞台は戦争から復興しつつある日本。東京都・新宿のタカシマヤが大破し瓦礫の山となっているような、架空の近未来です。探偵を生業としている主人公の結城新十郎ですが、インターネット網やYouTube風のサービスを提供する「JJシステム」の会長を務め、財政界にまで顔の利く切れ者・海勝鱗六に「やり込められて」ばかり。世間の人々は新十郎のことを「敗戦探偵」と揶揄しています。

そんな折、新十郎は財界の要人が集まるパーティーに招待されます。この宴は総合商社・加納グループの加納信実社長が、自身にかけられた終戦後の復興特需に関する不正疑惑を晴らすためのもの。会場に向かうエレベーターの中で鉢合わせたのが、海勝麟六の娘である梨江。父の代理人として出席した彼女は加納社長の妻・敦子と言葉を交わし、飲み物を口にしたところ具合を悪くしてしまい、トイレに駆け込みます。帰ってきた梨江が目にしたのは、背中にナイフを突き立てられた加納信実の遺体。ここから、殺人事件の犯人捜しが始まることとなります……。
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「UN-GO」全体の筋書きの中で個人的に注目してほしいのは、箱入りのお嬢様である梨江が父に対して抱く思いが徐々に変化していく過程。そして、彼女の衣装が登場の度にチェンジされて、可愛らしいデザインが施されているということです。キャラクターデザインを手がけたイラストレーターのpakoと漫画家の高河ゆんの絵の魅力も、この作品の大きな要素となっていますね。

海勝梨江の衣装の中でも特にイチオシの乗馬スタイル
(第3話予告より抜粋)

余談ですが、自由奔放に事件現場を駆け回る新十郎の相棒・因果の声を担当しているのは「けいおん!」で平沢唯を演じている豊崎愛生さん。唯の声とはまったく違う感じのボーイッシュなかつミステリアスな演技を見せています。 各話の次回予告では因果が原案小説について好き勝手にコメントするのが恒例となっていて、原案からどのようにアレンジしたかという部分にも触れているので、意外とためになります。
(第3話次回予告より抜粋)

「明治開化 安吾捕物」は著作権が切れた文芸作品をアーカイブしているサイト「青空文庫」で全編が無料公開されているのですが、その小説本文へのリンクが公式サイトにないのが個人的に不便だったため、対応リンク表を作ってみました。アニメから入ってこれから原案小説に手を出す人や、原案小説のファンでこれからアニメを見始める人の参考になればと思います。

<「UN-GO」各話と「明治開化 安吾捕物」ほか原案小説の対応リンク表>

UN-GO 第0話「因果論」

■明治開化 安吾捕物
■復員殺人事件
(「UN-GO」の世界観で「復員殺人事件」の内容を展開したもの。「復員殺人事件」は青空文庫にまだ掲載されていないので、図書館を当たるかAmazon.co.jpなどで中古本を購入するしかないのが現状)

UN-GO 第1話 「舞踏会の殺人」

明治開化 安吾捕物 その一 舞踏会殺人事件

UN-GO 第2話 「無情のうた」

明治開化 安吾捕物 その四 ああ無情

UN-GO 第3話 「覆面屋敷」
UN-GO 第4話 「素顔の家」

明治開化 安吾捕物 その九 覆面屋敷
明治開化 安吾捕物 その五 万引家族
(2編を合わせてリミックスし、前後編とした話。3話は原作その九「覆面屋敷」単体を元にしていて、4話はその九をベースにその五の展開を組み合わせている)

UN-GO 第5話 「幻の像」

坂口安吾 明治開化 安吾捕物 その十三 幻の塔
UN-GO 第6話 「あまりにも簡単な暗号」

アンゴウ
(この作品は「明治開化 安吾捕物」シリーズではなく単体の短編小説。「UN-GO」ではシリーズ以外の物語も取り入れて、それを新十郎が事件を解決する展開にリミックスしているパターンもある)

UN-GO 第7話 「ハクチユウム」
UN-GO 第8話 「楽園の王」

明治開化 安吾捕物 その十二 愚妖
白痴
選挙殺人事件
(「選挙殺人事件」を読むと先の展開が分かってしまうので、アニメを見てから読むのがおすすめ)

UN-GO 第9話 「海勝麟六の犯罪」

明治開化 安吾捕物 その十 冷笑鬼
明治開化 安吾捕物 その十五 赤罠

青空文庫のウェブ版は横書きで書かれているのですが、ウェブブラウザで長文を読むのが苦手な人は、AIR草紙などのPC対応の縦書き表示ビューアを使うとぐっと読みやすくなります。また、iPhoneが手元にあれば豊平文庫に代表される青空文庫専用アプリを使うと、出先でも読めるほか、アプリ名の通り文庫本に近づけた見た目になって非常に読みやすくなります。どちらも無償版・有償版の両方が用意されているので、自分に合った方を使ってみてください。

上記の対応表に書いた「第0話」とは、TOHO系の劇場で12月2日まで上映されていた「UN-GO episode:0 因果論」という番外編。過去に起きた事件と、そこから始まった新十郎と因果の関係など、テレビシリーズでは明かされていなかった部分を補完する内容です。映画館で見てきたのですが、内容は充実していたものの、初見の人が導入に見るよりは、テレビシリーズを見てから楽しむ方が適している物語となっていました。

テレビアニメは興味を持った時にまず見てみないとなかなか取っかかりがないものですが、幸い12月22日まで1話&2話が無料で視聴可能となっています。それを見て関心を持った人は、ぜひともテレビシリーズや原案の小説に取りかかってみてください。

坂口安吾の推理物をアレンジした探偵奇譚「UN-GO」の魅力
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