アイデンティティを確立できず誰もが「特別でありたい」と右往左往する多感な高校生たちの心を「臆病な自尊心と尊大な羞恥心」というパワーワードで容赦なくえぐる中島敦の短編小説「山月記」。
葛藤の果てに望みを叶えられず、虎となってしまった男「李徴」に自らを重ね合わせてしまった人も少なからずいそうな同作の教科書での採用動向を調べてみると、意外な傾向が見えてきました。詳細は以下から。
まず見てもらいたいのが、新潮社が2018年にまとめた高校の国語教科書への自社作品収録状況。
(PDFファイル)新潮文庫 高等学校国語教科書採用作品一覧
まずは教育出版社。「現代文B」「新編現代文B」「精選現代文B」に「こころ」と共に収録されています。
桐原書店は刊行している現代文Bの教科書すべてに「こころ」などと収録。
三省堂も現代文Bの教科書すべてに「こころ」と合わせて収録されています。
数研出版も現代文Bの教科書にのみ山月記を収録。
第一学習社は珍しく現代文Bの教科書だけでなく「高等学校 改訂版 新編現代文A」にも同作を収録。
大修館書店も「現代文A」に山月記を収録しています。
一方で現代文Bはすべてのバリエーションで収録。
筑摩書房は現代文Bにのみ収録しています。
東京書籍は現代文A・Bの両方、明治書院は現代文Bのみの収録です。
上記の収録状況から分かったことをまとめると以下のようになります。
・現代文Bの教科書への「山月記」収録率は100%
・「山月記」と「こころ」の同時収録率も100%
・現代文Aの教科書に採用されるケースはまれ
ちなみに「現代文A」と「現代文B」の違いは大学入試に用いられるか否かという点。早稲田大学の場合、文系学部では現代文Bが試験科目に含まれています。
大学受験を意識したカリキュラム(文系の場合)を組んでいる高校では必ず通ることとなるため、ただでさえ多感な時期に大学受験というプレッシャーにまで苛まれるティーンエイジャーを打ちのめすかのような「山月記」そして「こころ」。
青空文庫で無料で公開されているため、改めて読み直して当時の自分を振り返るのも良さそうです。
中島敦 山月記 | 青空文庫
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