人類は古くから繊維を使ってきました。綿、羊毛、麻、絹など種類も多様で、使用目的も衣服はもちろんロープや網、袋に敷物、装飾品など極めて多様。時代によっては国の主要産業となることもありました。
そんな繊維を人類はいつ頃使い始めたのか。その歴史をはるか5万年前までさかのぼらせる発見がなされました。詳細は以下から。
ケニオン大学のBruce Hardy博士らの研究チームはネアンデルタール人が長く居住していたフランス南東部にあるAbri du Maras洞窟の地下3mの位置で鋭利な剥片石器を発掘しました。これは5万2000年前から4万1000年前の地層です。
この石器を顕微鏡で観察したところ、底面に長さ6mm、太さ0.5mmの糸が付着していたことが判明しました。糸は「右撚り」と呼ばれる繊維の束を反時計回りにねじって作られており、さらにこの右撚りの糸を3本時計回りの「左撚り」に束ねてひとつの糸になっていたということです。
この糸は針葉樹の表皮の内側の靱皮繊維からできており、発見された石器に括り付けられていたのではないかと考えられています。
このことから、ネアンデルタール人がどの種類のどれくらいの年齢の樹木から繊維が採取できるかという知識を持っていたはずだとHardy博士は指摘します。また、撚り合わせる糸の本数や方向なども考えられていることから、基礎的な数学的素養を持っていたことの裏付けになるとのこと。
これまで見つかっていた最古の糸は1万9000年前、現生人類の祖先によるものでした。今回の発見でこの歴史が3万年ほどさかのぼり、ネアンデルタール人の時代から糸が作られていたことが明らかになりました。
現生人類がネアンデルタール人を含む他のヒト属と異種交配していたことがすでに明らかになっていますが、もしかしたら私たちの祖先はネアンデルタール人から糸を作る技術を学んでいたのかもしれません。
NHK出版 (2018-07-25)
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