東京・渋谷のBunkamura オーチャードホールにて上演中のダンス作品「テヅカ TeZukA」は、日本漫画界の巨匠としてあまりにも有名な「手塚治虫」の作品が、ダンスや音楽と融合した舞台作品。公演期間は2月27日(月)までと極めて短いですが、各公演に当日券が用意されているためまだ鑑賞のチャンスはあります。この演目、国内では人気俳優の森山未來さんが出演することが目玉として報道されていましたが、中身は骨太なコンテンポラリー・ダンスでした。
※作品の内容に言及しているので、ネタバレを避けたい人はご注意ください。
■手塚キャラがどしどし登場、ただし全体的に筋骨隆々
昨今、日本国内ではアニメ・漫画・ゲームの実写化が多数行われ、映画・ドラマ・舞台など形式は問わずして、俳優たちが高度な「コスプレ」をしている様を目にすることも多くなりました。この「テヅカ TeZukA」は、「手塚治虫原拠」という謳い文句はありつつも、独自の解釈によってキャラクターたちを舞台上に降り立たせています。
ダンサーが引き締まった体つきなのは当然なのですが、原作に忠実な衣装なのに頭部は丸坊主の「鉄腕アトム」が登場し、しかも腹筋が6つに割れているのを見ると単純に驚きます。また、ピノコはがっしりとした長身の女性が演じていて、ブラックジャックの1.5倍の背丈があります。衣装やキャスティングの端々からも、手塚治虫作品を「再現」するのではなく、「解釈」した結果を見せる舞台なのだということが伝わってきます。美術館で現代アート作品によく触れる人であれば、「ビデオアートに近い演出」と言うとより分かりやすいかもしれません。
作品自体の詳細な解釈をするのではなく、原作のキーワードを手がかりに現代社会や地球全体へとリンクさせていくシナリオでした。手塚治虫作品に詳しい方が当然楽しめると思いますが、主立った作品の概要を知っていれば鑑賞できる内容となっています。
※主な登場作品
「鉄腕アトム」
「ブラック・ジャック」
「火の鳥」
「どろろ」
「MW(ムー)」
「奇子」など
個人的には「MW(ムー)」を題材としたダンスが非常に印象的でした。白ブリーフ以外何も身につけていないダンサーと、黒服で身を固めた男性が複雑に絡み合うことで、作品の持つ味わいを彼独自のやり方で昇華させているように感じました。
■舞台映像の迫力、作り込みが段違い
手塚プロダクションが全面協力しているだけあって、漫画の画像が惜しげも無く巨大スクリーンに投影されます。そのため、前述したように、手塚治虫の熱烈なファンでなくとも鑑賞できるような演出になっています。
ナイロン100℃、大人計画、阿佐ヶ谷スパイダースといった国内の有名劇団で使用する映像も多く制作している上田大樹さんが手がけた舞台映像は非常に印象的。漫画を「読ませる」部分と「背景」とする部分が巧みに使い分けられていたり、インタラクションアート風の編集もあったりと、この映像だけでもかなりの見応えです。
映像やダンスの概要は、香港アートフェスティバル公式サイトがYouTubeにアップしているムービーが一番しっかり見られるかと思います。
TeZukA 《手塚》- 2012 Hong Kong Arts Festival - YouTube
■3.11、原発、そして鉄腕アトムからバクテリアへ続く連想ゲーム
上演開始5分後には、3.11を起点とする自然災害の脅威が語られ、原発問題に言及され、その流れでアトムが登場します。アトムというキャラクターと現在日本が置かれている被爆という現状が結びつけられ、そしてさらにアトムからウランの話になり、ウランを抑制する機能もある「バクテリア」に話が移り、さらにはバクテリア同士のコミュニケーションに話題はシフトする……という具合に、連想ゲームのように言葉が繋がっていきます。
上記のあらすじは舞台冒頭のものの15分程度のことですが、ベルギー出身の新進気鋭のコンテンポラリー・ダンサーであり振付師のシディ・ラルビ・シェルカウイさんが得た着想を全力で表現していることが分かります。正直、最初はエッジの立った演出に面食らっていた部分が大きかったのですが、ラストの演出には胸に迫るものがありました。単なるオマージュ作品と思ってみるとケガをします。
演出上の意図は作中ではほとんど語られないのですが、Bunkamura公式の森山未來さんインタビューにはふんだんにネタバレがあり、参考になります。
■森山未來の存在は欠くべからざる舞台構成
「テヅカ TeZukA」はダンス作品なので基本的にセリフはなく、あったとしても日本人にとっては異国語です。字幕はスクリーンに投影されますが、そちらばかりを追っていてもダンサーたちの姿が見えなくなってしまう……という、外国で上演される舞台独特のジレンマがあります。
それを手助けしてくれるのが、森山未來さんの語り。彼はこの公演で、ダンサーというよりはむしろ語り部としての役割を与えられているようです。森山さん自身にはどの手塚キャラの役も当てられておらず、舞台上で繰り広げられる彼らの舞いを常に傍観し、またその一部であるかのように群舞に参加しています。
照明は全体的に暗いトーンで、森山さんが主役を張っているわけでないため、森山未來という俳優自体を鑑賞したいファンにとっては消化不良になるかも。逆に、森山未來さんのドラマなどでは見られない部分、たとえば周囲の凄腕ダンサーたちと対等に踊る姿などを見るにはうってつけと言えそうです。
「日本向け」に編集された報道用の映像は、NHKのサイトで見ることができます。シディ・ラルビ・シェルカウイさんと森山未來さんのコメントも含めた上で1分程度の尺に収まっているのであくまで参考程度ですが、作品の前半部分の様子をハイライトで見せてくれるので鑑賞するか迷っている人には判断材料となりそうです。
■前売り券は追加公演含め完売、当日券狙いであれば鑑賞のチャンスも
2月25日11:00時点で、Bunkamuraのチケットセンターに問い合わせてみたところ、2月27日(月)の追加公演も含めて前売り券は完売したということです。
しかし、当日券分の席はまだあります。各公演の1時間前にBunkamuraのオーチャードホール当日券売場にて販売が行われるので、見たい!と思い立った人は足を運んでみてください。販売予定の席種はS席(8000円)のみとなっているようです。
<今後の上演日程>
2月25日(土) 15時開演
2月26日(日) 15時開演
2月27日(月) 19時開演
<上演時間>
1幕 50分
休憩 20分
2幕 60分
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合計 2時間10分(予定)
その他公演情報↓
テ ヅカ TeZukA(Bunkamura公式ページ)
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