古典や文学は必要なのか不要なのか、そんな論争に巨大な一石を投じるとんでもないエネルギーを持った作品が話題になっています。詳細は以下から。
菅野カラン作、2021年後期・第80回ちばてつや賞一般部門の佳作受賞作品「かけ足が波に乗りたるかもしれぬ」がネット上で大きな話題となっています。
この作品のテーマは俳句。大量の俳句の宿題を出された女子高生2人が解決方法として選んだのはランダムに5文字と7文字を書き込んだ色違いの付箋をよく混ぜて引くというもの。
この手法は10年前のバラエティ番組「おもしろ言葉ゲーム OMOJAN」を思い出す人もいるかもしれません。
この作品へは創作に携わる人からの反応が非常に大きく、マンガ家のとり・みきさんや歌人の千種創一らも絶賛。
物語の中で主人公の桜子は家の事情から離れて暮らす母親のもとへと家出を図り、友人のみづほは俳句の宿題を理由に同行します。
春と秋にまつわる象徴的な名を持ったふたりは普通列車で若狭湾まで10時間にわたる旅に出て、その途中ずっとランダム俳句を詠み続けます。
ここで徐々にふたりが俳句の面白さに気付き、付箋の選択から自分の言葉で詠み始めていく流れがこの上なく秀逸。ぼんやりとした「俳句とは何か」が少しずつ解像度を上げてゆき、到着前の最後の2句へと結実します。
俳句の面白さに気付いたふたりの前では、ランダムな付箋も世界を形づくる魔法の言葉に代わり、物語は母親と再開する終盤へと流れ込んでいきます。
そして読んだ人の多くがこの作品の世界観を表すとして挙げる「世界が狂ってても俳句が作れれば大丈夫」という台詞。
物語序盤まで戻って先生の言葉を読み返した時、ランダムな言葉から俳句を作ってきた桜子がこれから作り出そうとする「俳句の風景」とは何か、それが全く違った意味を持って立ち現れてきます。
この辺りのストレートに見えながらも重層的なつくり、そして読み返すたびに目に飛び込んでくる俳句の風景の数々。創作することに出会い、自分のものにしていく過程と喜びが作品の中でほとばしっており、読むたびにその瑞々しさに心が打たれます。
読み終わった時に私たちの心に焼き付いた風景と「俳句とは何か」への印象が、この作品のもたらす創造性の最大の発露なのかもしれません。本編は以下から。
ちょっとでも俳句がおもしろそうだと感じた人は、ランダム俳句にチャレンジしてみると新しい風景が広がるかもしれません。
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