Photo by Shawn Taylor
どう見ても大自然ですが、人間の営みがこの渓谷を形作りました。詳細は以下から。
グランド・キャニオンを筆頭に、息を呑むような絶景が点在しているアメリカ合衆国。ジョージア州のアトランタの南西240kmには「リトル・グランド・キャニオン」の相性を持ち、州の「7つの自然の不思議」にも数えられる渓谷があります。
それが「プロビデンス・キャニオン」なのですが、この渓谷はグランド・キャニオンのように川が数百万年を掛けて浸食したことによってできたのではなく、わずか100年足らずの間に人間たちの営みの結果として形作られたのです。
Photo by Stephen Rahn
その営みとは、19世紀初頭にこのエリアで始められた農業でした。この時代には未熟な農業技術による農業が南部を中心にアメリカ合衆国全土で行われていたのです。まだ土地は安く、限りなく、プランテーション農業や小規模農園らによって消耗品のように扱われていました。
また、結局のところ分益小作制は土地の価値を下げたのみならず、農民を借金漬けにした挙句に十分に教育を受けるチャンスをも奪ってしまいました。そうしたことから、農業のために原生林が伐採されましたが、表土の大量喪失を招く土壌浸食を避けるための手立ては取られないままだったのです。
そうして発生した農業排水による溝はすぐにより深く、広範囲に及ぶようになり、1850年代には1mから1.5mに及びました。それらの溝に流れ込む農業排水が増えるほどに浸食は酷くなり、現在最も深い場所では45mにまで及んでいます。
Photo by Alexander Lerch
そんなアメリカ合衆国農業史の負の遺産を背負い込んだようなプロビデンス・キャニオンですが、地質学者や観光客には人気のスポットとなっています。
それはなぜかというと、農業排水で削られたこの渓谷には数百万年前の地層が露出しており、貴重な研究材料となっているから。また、地層に含まれたミネラルが美しい模様を描いており、色とりどりな岸壁が訪れる人の目を楽しませてくれています。
Photo by Richard
プロビデンス・キャニオンは7400万年前から5900万年前の海底質の堆積物から形成されており、てっぺんでも6500万年から6000万年前という恐竜絶滅直後の時代のものです。この付近の土は鉄分を多く含んで赤みがかった色をしており、その下には「プロビデンス・サンド」と呼ばれる地層が広がっています。
Photo by Alexander Lerch
19世紀の農業による環境汚染の一環として形作られながら、恐竜時代の美しい地層とドラマチックな光景によって愛される事となったプロビデンス・キャニオン。なんとも数奇な運命で生まれた地形ですが、そのことを思い起こしながら訪れてみるとさらに感慨深く感じられるかもしれませんね。
(Photo by Shawn Taylor, Stephen Rahn, Alexander Lerch, Richard)
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