植物の「光合成の根源的欠陥」を遺伝子組み換えで補正し、成長を40%以上増幅させることに成功



遺伝子組み換えによって進化における最大の欠陥が克服される事になりそうです。詳細は以下から。

◆光合成の「欠陥」の補正
母なる自然の生み出した生物の身体や、その内部に宿る各種システムは素晴らしいものですが、だからといって欠陥がないわけではありません。進化の過程で起こったある種の「失敗」がそのまま運用され、生物のポテンシャルを限定する欠陥として作用することもあります。

そのような失敗の中でも「進化の最大の失敗」と呼ばれることもあるのが、植物の光合成に関わる欠陥です。そして今、この欠陥が人類により、遺伝子組み換えという手法によって再デザインされ、極めて効果的に補正されました。

この補正によって植物の成長が自然の植物よりも40%も促進されることになり、今後予測される人口増加に伴う食糧増産の切り札となる事が期待されています。


今回の極めて画期的なブレイクスルーをもたらした研究は、世界の食糧生産の持続可能な増加を目指し、農作物の光合成を効率化させる国際研究プロジェクトRealizing Increased Photosynthetic Efficiency(RIPE)の一環として行われたもの。RIPEはビル&メリンダ・ゲイツ財団イギリスの国際開発省Foundation for Food and Agriculture Research(FFAR)の支援を受けています。

◆光呼吸をショートカットする回路の構築
地球上の植物の多くは光合成を行っていますが、ほとんどの農作物は光合成の持つ根源的な欠陥によってその育成を制限されています。その欠陥は光呼吸と呼ばれるもの。


光合成では光を用いて二酸化炭素と水から糖と酸素が作られます。しかしこの際に行われる光呼吸によって糖と酸素を作るはずのエネルギーが消費され、二酸化炭素が排出されてしまいます。

特に高温になった場合にはこの光呼吸が盛んになり、光合成速度を上回って光合成で吸収される二酸化炭素量よりも放出される二酸化炭素量が上回ってしまうこと。これは温暖化が進展する現代では大きな問題となり得ます。

イリノイ大学と米国農業研究事業団の研究者らはジャーナル「Science」にこの光呼吸の過程をショートカットすることに成功したことを報告しています。

研究者らは遺伝子組み換えが容易で生育と世代交代の早いタバコを用いて研究を実施。光呼吸には光合成と同様にリブロース1,5-ビスリン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ(通称:ルビスコ)という酵素が作用し、複雑な回路を経て行われるのですが、このプロセスを劇的に省略しエネルギー消費を抑える代替ルートを遺伝子組み換えによって取り入れました。


2年以上に渡る研究の結果、これらの遺伝子組み換えされた作物はより早く育ち、より高く伸び、40%も多くの生物資源を産出。多くの茎は通常のタバコより50%も太くなっていました。

研究チームは現在、この成果を大豆、ササゲ、米、じゃがいも、トマト、茄子などの飼料や食用作物で応用すべく研究を行っているとのことです。

◆「遺伝子組み換え作物」への反発や環境への懸念
なお、この研究で作られているのは遺伝子組み換え作物であるため、世間からの少なからぬ反発も予想されています。ただし、増え続ける世界人口をどのように賄うかという喫緊の問題へのひとつの対策でもあるため、否応なく採用しなくてはならない時代が来るかもしれません。

また従来の植物への影響も懸念されています。特に遺伝子組み換えされ、より効果的に光合成の行える植物が野生化して従来の植物を駆逐する可能性、また従来の植物と何らかの形で交配してゆく可能性などが挙げられています。

ただし従来の農業でも既に自然に影響は及ぼしており、今回の作物によって壊滅的な影響が生じる事はないとの見方もあります。さらに植物の生育を限定するのは光合成の効率よりも水や窒素、リンなどがどの程度豊富かといった影響が大きいため、現実の自然環境ではそこまで大きな影響はないだろうとも言われます。

もちろん実際どうなるのかについては、現状では今後の研究の進展を待つしかなさそうです。

◆光合成の「欠陥」の理由
最後に、光合成に関わる酵素ルビスコが光呼吸というどうにも欠陥にしか見えない作用を持っているのは、植物が最初に光合成を始めた27億年前の大気に酸素がほとんど含まれていなかったという事情があります。

その当時には考慮する必要のない量だった酸素が、現代まで続けられた光合成の結果大気の21%を占め、代わりに二酸化炭素は0.038%程度にまで減少するなど、大気組成は完全に別物になっています。そのため当時は問題なかったルビスコの働きが、大気組成が変わった後に光合成の欠陥として植物の生育を阻害する結果となりました。


今回の研究で行われたのは「人類による、植物の光合成の現在の大気組成に合せた『最適化』」と言うことができるのかも知れません。

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