「空気中の二酸化炭素を直接吸収して資源として販売できるシステム」の商用第一号機がスイスで稼働


パリ協定で削減を目指すことが約束された空気中の二酸化炭素が「販売できる資源」となりました。詳細は以下から。

現生人類の喫緊の課題である地球温暖化対策。シリアとニカラグア、アメリカ合衆国を除く地球上の全ての国々がパリ協定の下で一致団結して対策に当たっていくことになりますが、その中でも温室効果ガスとして大きな位置を占めるのが二酸化炭素です。

各国は二酸化炭素の排出量を抑えようとこれまで以上に策を練っていくことになりますが、そんな中で排出量抑制ではなく、空気中の二酸化炭素を直接吸収してしまえばいいじゃないかと考える人々がいました。

BUZZAP!では一昨年にもこのシステムのコンセプトについて報じましたが、この際のカナダのCarbon Engineering社ではなく、別の会社がスイスで商用の第一号機を稼働させました。

大気中から二酸化炭素を直接取り除き、燃料にできてしまう夢のシステム | BUZZAP!(バザップ!)

このシステムDirect Air Capture(DAC)は空気を吸い込んで空気中の二酸化炭素を100度近くまで熱した独自のアミン加工された多孔質グラファイト製フィルターで吸着させ、脱離させてタンクへと隔離します。二酸化炭素がなくなった空気はそのまま大気中へと排出されます。このフィルターは数千回も繰り返して使用することができるとのこと。

このシステムに必要な水は二酸化炭素を処理する際に空気から水分も吸着させるため、それを用いる事から大量の水源などは必要としません。また、今回の第一号機はゴミ処理場の屋上に設置されており、このゴミ処理の際の廃熱を用いてフィルターを熱しています。

気になる二酸化炭素の吸収量は、天気や空気の組成によって若干の変動はあるとしながらも2460kgとのこと。これは年間では900トンにも及び、工業製品として出荷できる量に達しました。

実際にこのゴミ処理場から400mの距離にある温室栽培会社Gebrüder Meier's greenhousesにパイプラインを用いて二酸化炭素を供給しており、これによってトマトやキュウリの収穫量が「特筆すべき増加」となったとのこと。

もちろん二酸化炭素の用途は温室での作物の栽培には留まりません。私たちが普段口にする炭酸飲料にも二酸化炭素は使われますし、水素などと化合させることで種々の燃料にもなります。BUZZAP!では昨年二酸化炭素と自ら安価にエタノールを生成する方法が発見されたことを報じましたが、これらの技術を組み合わせれば温暖化対策の問題は大きく進展します。

二酸化炭素からエタノールを極めて安価に常温で生成する方法を科学者らが偶然に発見 | BUZZAP!(バザップ!)

そもそも二酸化炭素の増加は地中から掘り出した化石燃料を燃やすことで空気中の二酸化炭素濃度が上がってしまうというもの。化石燃料の代わりに既に放出されている二酸化炭素を取り込んで燃料とすれば、これ以上の二酸化炭素の増加は止められますし、二酸化炭素を減らすためにこうしたシステムを大規模に稼働させることもできます。

DACはその場の空気から二酸化炭素を集めるため、輸送コストがかからず、ユニットも大小取り揃えているため、二酸化炭素供給先の需要に合わせた規模でのフレキシブルな運用が可能です。

集められた二酸化炭素を温室や今後増加すると予想される植物工場などで用いれば、光合成による本来のサイクルに戻して行くこともできます。

パリ協定での取り組みを大きく前に進める夢の技術が既に実際にこの地上で稼働し始めたということ。果たして人類はこの技術を正しく使い、温暖化を止めることができるでしょうか?

The world's first commercial carbon-capture plant opens in Switzerland

精神論抜きの地球温暖化対策――パリ協定とその後
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