国民の税金と電話加入権を原資に、他社の追随を一切許さない通信インフラを日本全国に整備したNTT。
とりわけ光ファイバーに至っては、すべての携帯電話事業者が基地局のバックボーンとして頼らざるを得ないのが現状ですが、そんな同社の完全民営化を目指して議論を進める政府に各社が待ったをかけました。詳細は以下から。
◆プレスリリース
NTT法の見直しに関する要望書を提出 | 2023年 | KDDI株式会社
NTT法の見直しに関する要望書を提出 | 企業・IR | ソフトバンク
NTT法の見直しに関する要望書を提出 | プレスリリース | 楽天モバイル株式会社
◆各社の説明
ソフトバンクの宮川潤一代表取締役社長、KDDIの髙橋誠代表取締役社長、楽天モバイルの鈴木和洋代表取締役から説明。今後もめったに見ることはないと思われる光景です。
まずはKDDIの見解から。時代に合わせた見直しは必要としながらも、「国民の利益が損なわれるNTT法の廃止には『絶対』反対」との立場を強調していました。
特にNTT東西とドコモのグループ統合、一体化を防止して公正競争の確保が必要と説明。
また、通信を引き続き提供する義務や、25兆円かけて作った「電柱、管路、とう道」などを特別な資産と認識し、外資などからしっかり守らなければならないとしています。
続くソフトバンクは「NTTが公共資産を持つ特殊法人であることを忘れてはいけない、もしも辞めたいなら国がしっかり監督責任を持つべきだ」と説明。
しかしながら現実的ではないため、廃止ではなく一部改正する形で特殊法人として責務を担うことが妥当との見解です。
さらに「(防衛費財源確保を端とするため)公社時代から受け継いだ資産に東京ドーム360個分の広大な土地があるのだから、返還して国が売却してはどうか」「民間、外資、営利法人などが手に入れたら日本の通信、国民の生活が脅かされる。規制があって当たり前」「失礼な話をしていると思うが、それぐらい反対の立場」という姿勢を示していました。
楽天モバイルはまず、「日本の通信事業は低価格で高品質な通信を国民にあまねく提供する必要がある」と説明。
2社も触れた25兆円にもなる特別な資産について、国民共有の資産であるため新規事業者も含めて平等に使えるよう議論が必要との見解を示しています。
また、法改正を否定しないものの「NTTを後押ししたからといってGAFAのようになれるわけではないため、もう少し大きな目で『どうしたらスタートアップ企業が出てくるのか』など、包括的な取り組みが必要」と述べています。
以上3社が主体となり、NTT法の見直しに関する要望書が本日、自民党の萩生田光一政務調査会長と甘利明衆議院議員、そして鈴木淳司総務大臣に提出されました。
CATVも地域の事業者も一丸となり、賛同する事業者の数は過去類を見ない規模となる180。『懸念事項があるNTT法廃止は反対』との姿勢を改めて強調しています。
NTTが事業ごとに分割され、それぞれが民間企業と切磋琢磨することで健全な競争環境を実現してきた日本の通信業界。
あれよあれよという間にドコモが完全子会社になり、再編や買収を経てどんどんNTTグループが強大になりつつあります。
そんな中で「政府が持つ株を売ってNTTを完全民営化」という話が持ち上がりましたが、ドコモ完全子会社化の弊害すら検証されない中での議論はあまりにも拙速と言わざるを得ません。
そもそも「防衛費の財源確保のために完全民営化、国民の税金で整備したインフラ込みで」という話自体、筋が通らない部分があるだけに、各社の言い分はもっともなところがあります。
せめて「国民の税金を原資に整備したインフラは分離」という話が通らないのであれば、健全な競争すら維持できないだけに、議論の行く末に注目が集まりそうです。
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