「働かない働きアリ」は集団存続のための重要な「フェイルセーフ機構」だった

Photo by Maciej

今朝から話題の「働かない働きアリ」の役割について、元論文からもう少し詳細に読み解いてみます。

2月17日の毎日新聞の朝刊などで話題となっているのが「怠けアリ 集団存続に貢献 勤勉アリの「交代要員」北大など確認」という記事で「Scientific Reports」に発表された長谷川英祐・北海道大准教授らのチームによる論文についてのもの。

ネットでは「『一億層活躍社会』を一刀両断する結果だ」「人間はまた違う」など多くの意見が見られますが、じっくり見るとどういうことになっているのでしょうか。

研究チームは社会性昆虫の集団の中に何割かの働かない個体が存在していることから、集団としての生産性を下げているはずのそれらの個体がなぜ存在しているのかを研究。長期的には働かない個体の存在が働きものの個体の「代替要員」となり、集団の存続に大きな役割を果たしていることを示しています。

研究チームはアリを用いて実験を行いましたが、それぞれの働きアリには集団が行うべき仕事に対して反応する閾値に差があるとのこと。どの程度その仕事が差し迫り、他にその仕事を行うアリがいないかで働き始めるタイミングが働きアリごとに違うということ。

その閾値が全方位的に高めな、つまりかなりの差し迫った状況にならないと働き出さないアリが実験などで観測される「働かない働きアリ」であるということ。これだけ見れば「怠けアリ」という呼称も致し方ないように見えます。

しかし、こうした「働かない働きアリ」がその真価を発揮することがあります。それはアリの集団にとって大規模な災害が発生し、他の働きアリたちが対応に追われて疲弊し、一度に休息が必要になった場合です。

アリの集団では卵の掃除と幼虫のケアが極めて大切な、いっときも休むことのできない仕事です。特に卵は細菌に感染すると死んでしまい、ごく短期間でも目を離すことができません。

そうした常時働き手が必要な仕事が存在している時、全てのアリが災害対策で疲弊して働けないと、一度に多くの卵や幼虫が死んでしまい、集団存続に極めて大きな悪影響を及ぼす可能性があります。

その緊急時に「働かない働きアリ」たちがついに本気を出し、働きものたちの「代替要員」として最も大切な仕事を担うことになるのです。研究チームは「働かない働きアリ」の存在を「フェイルセイフ機構」と呼んでいますが、まさにその呼び名がふさわしいと言えそうです。

実験でも同じような閾値の働きアリだけを集めた集団よりも、多様な閾値を持つ働きアリの集団の方が、より長く持続したことが示されています。短期的には生産性を押し下げることになる「働かない働きアリ」は、中長期的に見れば代替要員として集団の持続性を高める「フェイルセイフ機構」としての役割を持っていると結論付けられます。


思わず人間社会にも当てはめてみたくなる研究ではありますが、いくつか注意点があります。まずは「働かない働きアリ」が集団の最も大切で常時働き手が必要な仕事を担うスキルを(生まれながらに、ですが)持っているということ。そして本当に働き手が必要な緊急時にはしっかりとその役割を果たしているということです。

日本社会や人間社会といった大きな集団にそのまま当てはめると、あまりに多様過ぎるために実際の結果と異なってきてしまいそうです。むしろ会社などの組織に関してはアリたちのこうした習性に学ぶところは少なくないと言えそうですが、いかがでしょうか?

Lazy workers are necessary for long-term sustainability in insect societies Scientific Reports

(Photo by Maciej


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