「MNP割引に上限」は無意味、政府主導の携帯料金値下げの議論がズレすぎている件について



政府主導で携帯各社に対し、データ通信をほとんど利用しないユーザーに向けた1GBプランの新設が働きかけられ、高市早苗総務省がMNP利用者への割引額に上限を設けることを法律で推進する構えを見せるなど、議論が進む携帯料金値下げ。

しかし実際のニーズとマッチしておらず、どうもズレがあるどころか、下手をすれば政府自らが国内メーカーにトドメを刺すことになりかねません。詳細は以下から。

◆政府が打ち出す携帯料金値下げの軸と、その論拠は?
まずおさらいしておきたいのが、政府および総務省が進めようとしている携帯電話料金の値下げの方法。「料金の透明化と公正性確保」「ライトユーザー向けの割安な料金プラン」「MVNOの普及・競争促進」をテーマに総務省の有識者会議で議論が進められています。

そして11月12日にはNTTドコモの加藤社長が現行の最安プランとなる「通話定額およびデータ通信2GBで月額6500円」を下回る、1GBのライトユーザー向けプラン新設を検討する方針であることを明言。同プランにはKDDI、ソフトバンクも追従するとみられており、データ通信をほとんど使わない層の利用料金が下がることが期待されます。

また、16日には高市早苗総務省が「過度な端末の値引き競争に対しては一定の歯止めをかけるべき」として、携帯各社がMNP利用者に対して行っている端末代の割引に上限を設けることを法律で定める方針を明らかに。

これは携帯各社がMNP利用者に対して行っている端末代の大幅割引の原資が、同じ端末を長く利用しているユーザーの通信料収入であることを問題視したもので、MNP利用者と同じ端末を長期にわたって利用しているユーザーとの間に不公平感が生まれることを論拠としています。

◆MNP制限はかなりの悪手、そもそもトータルの支払額を上げたのは政府
・MNP割引の上限設定で競争は停滞、喜ぶのはドコモだけ
いくら民間企業とはいえ、携帯電話事業は許認可制であることを考えると、政府の意向に従うことになるとみられる携帯各社。ライトユーザー向けのプランを喜ぶ声は相当数あると思われますが、MNPの本体割引に上限を設けることは悪手と言わざるを得ません。

なぜならMNPが解禁された2006年以降、携帯各社がガラケーではシャープやNEC、パナソニックの機種、スマホではiPhoneやXperiaといった人気機種を武器にMNP商戦を繰り広げたからこそ、ようやく大規模なユーザーの流動が生まれ、まともに競争する環境が生まれたからです。

おそらくMNP向けの割引に上限額を設ければ、ほぼ確実に各社とも割引額を上限に設定してしまい、「料金だけでなくMNP割引も横並び」となってユーザーの流動は鈍り、競争は停滞することが予想されます。

ちなみにMNPが進まなくなることで一番喜ぶのは、長年続く他社への流出を食い止められるようになるNTTドコモ。今年2月にスタートしたフレッツとのセット割「ドコモ光」解禁に続いて、総務省はまたしてもNTTグループを喜ばせたいのでしょうか。


・携帯電話料金の値上がりは誰のせい?
また、今回政府や総務省が槍玉に挙げている通信料金や端末代金ですが、念頭に置いておきたいのが「ここ1年で携帯電話本体が大きく値上がりしている」ということ。

政府が強力な金融緩和で円安へと誘導した結果、日本で最も売れているiPhoneは2014年11月にSIMフリー版2015年4月にキャリア版が1~2万円ほど値上がりしました。

今年9月発売の最新機種「iPhone 6s」に至っては初めてドコモを除く各社から「実質0円」が姿を消したほか、保証サービス「AppleCare+」の加入価格および利用価格までもが値上げされています。


本国アメリカでのiPhone 6sの実質本体価格はiPhone 6の発売時と同じ。国内のiPhone値上がりは確実に円安によるものです。


仮に本体が2万円値上がりすれば、毎月支払う分割代金に1000円近くが上乗せされる形に。つまり円安が「トータルの携帯電話料金」を増やす新たな要因として、非常に大きな影響を与えているわけです。

ちなみに過去10年で最も円が高くなった「1ドル80円」時代と、最も円が安くなった「1ドル120円」時代を比較するとこんな感じ。高額商品であればあるほどその差は大きく、消費者に重くのしかかってきます。


ただでさえスマホ本体が高くなる中で、MNPの割引額にまで上限を設けてしまえば、文字通りスマホは「高級品」となってしまい、本体代金が高くてもiPhoneやXperiaといったハイエンドスマホを求める層と、価格競争力の高い中国や台湾メーカー製スマホを求める層への二極化が進む可能性が考えられます。

おまけにユーザーの買い換えサイクルも今以上に伸びるとみられ、もしスマホの販売台数が落ち込んでしまえば、ただでさえ国内市場が最後の砦となりつつある富士通やシャープが生き残れるとは思えず、政府主導で国内メーカーに引導を渡す形になりかねません。

もちろん端末価格と通信料金を完全に分離しない、携帯各社の姿勢にある程度メスを入れる必要はあると思われます。一方で携帯電話の料金には販売店などでの手厚いサポート、キャリアならではのスマホの開発費用などが含まれていることを考えると、すべての料金を完全に分離するのは難しいのではないでしょうか。

また、急速に成長する格安スマホ市場のことを考えれば、そう遠くないうちに「サポートやフルサービスよりも料金の安さを優先したいなら格安スマホ」「手厚いサポートやフルサービスを受けたいなら大手3社」といった棲み分けが生まれるため、あえて携帯各社への締め付けを強める必要がそこまであるのか……という気がしてなりません。

◆じゃあどうすればいいのか
このように、否定的な見解とならざるを得ないMNPへの割引上限設定。槍玉に上がっているMNP利用者と長期利用者と間に生まれる不公平感の是正に最も効果的だと思われるのは、やはり長期割引を拡充することです。

すでにドコモは昨年、新料金プラン「カケホーダイ」導入に合わせて契約年数に応じたパケット割引「ずっとドコモ割」を導入。6年以上契約しないと割引が受けられませんが、年間3600円~2万4000円が割り引かれるようになっています。


契約期間に応じた割引以外にも、「同じ端末を2年以上使い続けたら、あとは毎月一定額割引」といった割引が導入されれば、長期間同じ端末を使い続ける利用者の不公平感は薄れるのではないでしょうか。

また、もう一つ必要だと思われるのが、ユーザーのニーズに沿うよう、料金プランの柔軟性を持たせること

特にドコモは昨年「機種変更時にカケホーダイに移行しないと、携帯電話本体の割引を一切行わない」という、非常に乱暴な方法で新プランへの一本化を推進。旧プランを残したauやソフトバンクと異なり、通話定額を求めていないユーザーに対しても通話定額を押しつけていますが、このようなやり方こそ是正されるべきだと思われます。

各社の主力端末が横並びとなり、LINEなどの普及でキャリアメールの必要性が薄れていることもあって、MNPのハードルがどんどん下がっている携帯電話業界。

昨年3月のような極端なMNP優遇+キャッシュバックが起きないよう、自主規制を促す必要はあると思われますが、今さらわざわざMNPを法律で締め付けることに、あまり意味があるようには思えません。

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