猿と人間の知性を隔てる、人間特有の遺伝子の存在が明らかにされたことになりますが、はたしてそれだけで済むでしょうか。詳細は以下から。
MPI-CBG(Max Planck Institute of Molecular Cell Biology and Genetics)の研究チームがジャーナル「Science」に発表した研究によると、人間に特有の遺伝子を猿の胎児に組み込んだところ、大脳新皮質が通常よりも大きくなったとのこと。
大脳新皮質は、大脳皮質の中でも他の霊長類よりも人類で特に大きな部位で、推論や言語といった高度な認知能力を司っています。
実験では101日目のコモンマーモセットという猿の胎児(出産まで約50日の段階)にARHGAP11Bという遺伝子を注入。これは脳の幹細胞にさらなる幹細胞を組織させるトリガーとなる遺伝子で、人類の認知能力の向上に極めて重要な役割を果たしていると考えられているもの。
ARHGAP11Bは人類特有の遺伝子で、チンパンジーから分岐した後、そしてネアンデルタール人やデニソワ人と分岐する前に獲得されたものであることが知られています。
この遺伝子は以前ネズミやフェレットでの実験は行われていましたが、霊長類では初めて脳のサイズアップが確認されました。
研究を主導したMichael Heide博士は「コモンマーモセットの脳が肥大し、脳のしわが増え、皮質板も通常より厚くなっていることを確認した」と発表しています。
MPI-CBGは2016年、この脳をサイズアップさせる遺伝子が150万年前から50万年前の間に獲得されたことを突き止めました。ARHGAP11Bの中のひとつの遺伝情報が突然変異してC(シトシン)からG(グアニン)に置き換わったことで現在の機能を有することになったとのこと。
こうした突然変異は生物史上では頻繁に起こることですが、このケースでは人類の進化に速やかで甚大な影響を与えたと考えられます。
なお、実験に使われたコモンマーモセットの胎児は「高度な倫理基準」によって適切に処理されるとのこと。実験を総括するWieland Huttner博士は「これらを『誕生』させることは初期段階では無責任な行為だと考える。誰もどのような行動の変化が生じるか分からないのだから」としています。
このため、実際にサイズアップした脳がコモンマーモセットの認知能力などにどのような影響を与えるかは現時点では不明。今後そうした実験が行われるかについても未定です。
なお猿に対する実験では、BUZZAP!でも2019年に中国のKunming Institute of Zoology, Chinese Academy of Sciencesがノースカロライナ大学と共同し、11匹のアカゲザルに対して人間の脳の発達や進化を司る遺伝子MCPH1を注入した件をお伝えしました。
こちらの実験では猿たちは実際に誕生し、成体になるまで生き延びた5匹が記憶テストや反応速度において遺伝子組み換えされていない対照グループよりも良い結果を出したことが報告されています。
果たしてこの胎児は誕生させるべきなのか。誕生した時にあの映画シリーズのような未来が訪れるのか、気になるところでもあります。
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