実はかなりお買い得、ソフトバンクがイー・アクセスを買収した狙いを考えてみた


日本経済新聞の報道が端を発したソフトバンクによるイー・アクセス買収。

今回の買収劇の狙いを緊急記者会見が始まる前に考えてみた上で、ソフトバンクが発表した資料を紐解いてみました。



◆携帯電話の加入者増加
現在3位のソフトバンクにとって、悲願となっているのが「加入者数で2位のKDDIを抜くこと」。ソフトバンクは携帯電話各社の純増(新規契約から解約数を引いた数字)競争の中で、「みまもりケータイ」や「PhotoVizion」などを基本使用料無料で提供するなど、他社が到底やらないような手段も用いています。

また、子会社のウィルコムやワイヤレスシティプランニングが提供するPHSやAXGPといった通信サービスにも、自社の通信サービスをセットで提供しており、「1契約獲得するとグループ全体で2純増」という環境を構築するなど、ソフトバンク単独だけでなく、グループ全体で純増を確保できるように力を入れているのが現状。

しかし、これらの施策は当然コストもかかり、「みまもりケータイ」や「PhotoVizion」にいたっては最低でも2万3520円(980円×24ヶ月分)の基本使用料収入に加え、端末代金すらも犠牲にしている場合があるわけですが、400万人のユーザーを抱えるイー・モバイルを報道通り2000億円程度で取得するということは、言い換えれば「毎月基本使用料を支払ってくれるユーザーを1人あたり約5万円で買う」ということになるわけです。

これは身銭を切ってお金を払わないユーザーを獲得するよりも健全で、後々の基本使用料収入を考えれば安上がりですらあり、ソフトバンクモバイルとウィルコム、ワイヤレスシティプランニング、イー・モバイルの2012年8月末時点での契約数を合算(約3917万契約)すれば、KDDIとUQコミュニケーションズを合算した数字(約3934万契約)に肉薄できることになります。

◆イー・モバイルが持つ帯域
携帯電話各社が抱える共通の問題として、スマートフォンユーザーの増加による周波数帯域の逼迫があるわけですが、イー・モバイルは帯域に余裕があるため、他社と比較して通信量制限や速度制限が圧倒的に緩やかであるという特徴があります。

さらにイー・モバイルには2015年から利用できる700MHz帯のプラチナバンドが割り当てられていることを考えると、子会社化によって2.5GHz帯を手に入れることができたウィルコム以上にイー・モバイルは「うまみのある」存在なのではないでしょうか。

◆イー・アクセス本体の固定通信サービス
前述のイー・モバイルだけでも十分なうまみがあるわけですが、もう一つ大事なのがイー・アクセス本体が提供する固定通信サービス。同社はADSLサービスでソフトバンク(38.8%)に次ぐシェア2位(23.5%)を獲得しており、今回の買収劇によってソフトバンクのシェアは6割超に拡大することとなります。

シェア拡大は収益性の向上につながるだけでなく、「auスマートバリュー」でCATVや光通信などの固定通信サービスと携帯電話サービスを組み合わせてユーザーに提供しているKDDIに対する切り札ともなるため、押さえておいて損は無い……というわけです。

モバイルブロードバンドサービスでソフトバンクに回線を提供していたほか、総務省に2.5GHz帯の割り当てを申請する際もタッグを組むなど、もともとソフトバンクとイー・アクセスの距離が近い感はあっただけに、今回の買収劇はむべなるかなという気もしますが、どれだけのシナジー効果が生まれるのかに注目が集まります。

・17:29追記
◆ソフトバンクが説明する「両社が得られるメリット」
<PDFファイル>ソフトバンク株式会社による株式交換を通じてのイー・アクセス株式会社の完全子会社化に関するお知らせ 兼 ソフトバンクモバイル株式会社とイー・アクセス株式会社の業務提携のお知らせ

ソフトバンクモバイルとイー・アクセスが連名で発表したプレスリリースによると、両社は本日、ソフトバンクを株式交換完全親会社、イー・アクセスを株式交換完全子会社とする株式交換契約を締結したそうです。これにより両社が得られるとしている主なメリットは以下となります。

1.移動体通信サービスのネットワークの相互活用
ソフトバンクモバイルはイー・アクセスに対して900MHz帯および2.1GHz帯のネットワーク、イー・アクセスはソフトバンクモバイルに対して、データ通信サービス用に1.7GHz帯ネットワークを提供。これによりイー・アクセスは広域なエリアでサービス展開できるほか、ソフトバンクモバイルは2.1GHz帯と1.7GHz帯の両方でFDD-LTEサービスを提供することが可能に。

2.基地局ロケーションの効率的運用についての相互協力
相互に提供するネットワークに係る基地局のロケーションについて協議し、効率性の観点からロケーションの共用化や基地局の新設、移転などを行うことで、短期間でのカバレッジエリアの拡大、設備投資額およびランニングコストを削減可能。

3.シナジーの創出
・営業力の強化
ソフトバンクモバイルの取扱店は約7000店とイー・アクセスの取扱店は約2000店で、相互のサービス・商品を積極的に販売するほか、法人営業を担うソフトバンクテレコム株式会社がイー・アクセスのサービス・商品も販売することで、営業力の強化を図り、顧客基盤を一層拡大。

・携帯端末の調達単価の低減
上記の営業力の強化により携帯端末の販売台数の増加が見込まれ、調達台数の増加や共同調達などによるボリュームメリットを通じて、携帯端末の調達単価の低減も見込まれる。

・バックボーンネットワークの共用
イー・アクセスの移動体通信サービスおよびADSLサービスのバックボーンと、ソフトバンクグループのバックボーンを共用し、コストを低減。

・21:13追記
◆イー・モバイルのLTE基地局をiPhone 5に、業界2位に浮上も
ソフトバンクの発表資料に掲載された、主なメリットを追加してみました。

まずはiPhone 5対応のLTE基地局。以前BUZZAPでもお伝えした通り、iPhone 5は1.7GHz帯を用いたイー・モバイルのLTEにも対応しているため、2013年3月には基地局が3万局(ソフトバンク2万局、イー・モバイル1万局)となる予定です。

ソフトバンクモバイルもイー・モバイルも、両社のLTEネットワークを利用できるようになります。

KDDIは2.1GHz帯のみしか対応していないが、ソフトバンクモバイルは1.7GHz帯も使える……ということに。

そしてソフトバンクが最も言いたいであろう、契約数ランキング。現在ソフトバンクは3位でauに肉薄(注:ソフトバンクの数字はウィルコムを合算したもの)していますが……

イー・モバイルを合算すると一気に2位に浮上することに。

「まさにどんでん返しの大逆転」と言いたげなグラフも用意されており、2012年度に4000万回線構想を達成できることや、営業利益でも業界2位に浮上することが告知されています。

なお、KDDIの傘下には2012年8月末時点で320万件におよぶ累計契約数を抱えるUQコミュニケーションズ(「UQ WiMAX」を展開)があるわけですが、あえてソフトバンクモバイルがカウントしていないのは、UQ社が社団法人 電気通信事業者協会によって携帯電話やPHS事業者ではなく、BWA(Broadband Wireless Access)事業者としてカウントされていることによるもの。

ソフトバンクも「Softbank 4G」用の高速回線「AXGP」を提供しているBWA事業者・ワイヤレスシティプランニングの累計契約数(8月末時点で19万800件)を合算していませんが、仮にBWA各社の8月末時点での累計契約数をそれぞれの契約数と合算した場合、以下のようになり、まだまだ肉薄していることとなります。

ソフトバンク……3930万件
KDDI……3909万件


◆イー・アクセスをあえて存続させる意味、業界2位の契約数はおそらく不動に
このようにBWA事業者を考慮すると、まだまだ契約数でKDDIを大きくリードしたとは言いがたいわけですが、ここで気になってくるのがイー・アクセスをソフトバンクに完全に吸収せず、別個のグループ会社として存続させる意味。

あくまで推察でしかありませんが、単に「ブランドの価値を大事にしたい」というだけではなく、ウィルコムやワイヤレスシティプランニング同様、イー・モバイルの回線と自社回線をセットで提供し、1契約を獲得するごとにグループ全体で2純増……という目的のためである可能性があります。

つまり、今後ソフトバンクやイー・モバイルから双方の回線に対応した端末が発売されると考えられますが、このままいけば「どちらの端末を契約しても、もう一方の回線をセットで契約したことになり、結果としてグループで2純増することになる」という、今までの純増数積み増しの完成形とでも言うべき形態が生まれることとなるのではないでしょうか。

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