【前編】熊野古道の入門編、熊野本宮大社までの道を発心門王子から歩いてみました


四国のお遍路と共に近年多くの人の注目を集めているのが紀伊半島南部を巡る熊野古道。その歴史は古く、平安期以降天皇から庶民まで幅広い日本人がこの地に「熊野詣(くまのもうで)」と呼ばれる参拝の旅に出ました。

そんな熊野古道の三山として知られる熊野本宮大社、熊野速玉大社、熊野那智大社を訪れてみました。

山深い紀伊半島をひた走り、Buzzap!取材班が最初に向かったのは本宮こと熊野本宮大社。先日報じた十津川村の谷瀬の吊り橋から南に1時間、熊野川のほとりに本宮は鎮座しています。

今回は熊野詣の気分を少しでも味わってみようと、熊野古道を歩いて本宮大社へと向かってみることにしました。

世界遺産にも登録されたことから「熊野古道」という名前を聞く機会は多くなりましたが、いったいどういうものなのかについては少し説明が必要です。

まず、熊野古道は1本の道ではなく、「熊野参詣道」として世界遺産に登録された中辺路(なかへち)、大辺路(おおへち)、小辺路(こへち)に加え、紀伊路、伊勢路、大峰奥駈道の5つが紀伊半島を縦横に巡っています。
熊野古道 ? 熊野本宮観光協会より引用

今回歩くのは、古来最も多くの参詣者が歩いたとされる中辺路の、熊野本宮大社の神域の入口ともされる「発心門王子」から本宮大社までの6.9km。初心者でも歩きやすい熊野古道No.1の人気コースとのことで、入門編には最適。

発心門王子へは龍神バスでJR紀伊田辺駅(6:16発、11:35の2本)から2時間半弱。もしくは本宮大社前(1日7本)から15分程度。実際には付近の宿に泊まって本宮大社前の駐車場に車を止め、バスで向かうのが現実的です。

特にこちらの熊野川の川原の駐車場は広いため、観光シーズンでもすべて埋まる心配は高くありません。

本宮大社前のバス停がこちら。後ろに見えるのは和歌山県世界遺産センターと熊野本宮観光協会。さすが世界遺産だけあって立派な設備です。観光協会では地図も手に入るためもらっておきましょう。

世界遺産センターではちょうど熊野古道の写真展が開催されていました。

本宮大社付近にはパンやお弁当を売っている店も多いので、ここで買っておきましょう。

さて、バスに乗り込んで発心門王子へ。新型コロナで人出が減っているとはいえ、連休だったためバスはほぼ満席。普通の休日だとぎゅうぎゅう詰めの可能性もあるため注意。とはいえ15分の辛抱です。

発心門王子のバス停にはきれいな休憩所とトイレが。

ここから本宮大社とは逆方向に数分歩くと発心門王子です。せっかくここまで来たので行ってみましょう。

世界遺産の大きな石碑があります。

こちらが発心門王子。王子とは熊野権現の御子神とされ、熊野詣の参拝者らに庇護を与える神々のこと。紀伊路から中辺路に掛けてこれらの王子の神社が建てられており、九十九王子と呼ばれます。

発心門王子はその中でも特に格の高い五体王子のひとつとされており、その名前は山岳信仰の四門修行に由来します。発心は正確には発菩提心、仏門に入って悟りへと至る修行への意志を固めるということ。

神社なのに悟り?と疑問に思う方もいるかもしれませんが、熊野古道の信仰はまさしく神仏習合の体現です。熊野三山の祭神の神々は熊野権現と呼ばれ、例えば本宮大社の主祭神、家津美御子大神(けつみこのかみ)は素戔嗚尊(すさのおのみこと)と同一視されながらも阿弥陀如来の化身とされます。

また熊野は紀伊半島南部という辺境の山岳地帯にあることから、修験者らが道案内人となって道中の儀礼や作法の指導にもあたり、「先達」と呼ばれていました。役行者が創始した修験道は古来の山岳信仰と仏教の融合したものであり、こちらも神仏習合です。

私たちが今歩くこの道は、1000年以上も昔から続く神仏習合の信仰が残してきた足跡そのものと言っても過言ではありません。

発心門王子から反対側の中辺路を見たところ。こちらから歩いてくる人がいたとしたらおそらくガチの参拝者でしょう。

さて、バス停まで戻って本宮大社を目指します。自販機があるのでドリンクの買い忘れがあればここで。この先で買える場所はほぼありません。

歩き始めてすぐに無人販売所が。

かわいい猫がお出迎えしてくれました。繋がれていますがどう見ても完全にくつろいでいます。軽くモフったら出発です。

最初に歩くのはのどかな山間の村の風景の中です。

昭和の頃から変わっていなそうな家々と田畑に和みます。

白い彼岸花が咲いていました。

かわいらしい木彫りの彫刻も。

最初のチェックポイント、水呑王子。ここには休憩所があります。

ここからは森の中へ。

熊野古道のイメージはこうした石畳でしょうか。紀伊半島は雨が多く、道が崩れやすいためこのように石を敷いて保全を図っていたとのこと。

しばらく歩くと景色が開けてまた村に入ります。

茶畑が点在し、目の前には果無山脈が連なります。

NHK連続テレビ小説「ほんまもん」に何度も登場した百前森山の撮影ポイントとのこと。

村からまた少しだけ山道に入ります。

すると伏拝王子に到着。ここでちょうど中間地点で、発心門王子からは1時間ほどでした。こちらにはトイレと休憩所が完備されており、昼食時だったこともあり休んでいる人もかなりいました。

伏拝王子は、長い伏見詣の途中の参拝者が遠くに初めて熊野本宮大社を垣間見る地点であり、その感動のあまり「伏して拝んだ」ことからその名がつけられたといいます。

またここでは平安時代の女性歌人、和泉式部が熊野詣の際にここで突然生理が始まり、血の穢れのため参拝を諦めようと「晴れやらぬ身のうき雲のたなびきて月のさわりとなるぞかなしき」と歌を詠んだところ、熊野権現が夢に顕れて「もろともに塵にまじはる神なれば月のさわりもなにかくるしき」と返歌し、無事に参拝できたという極めてイケメンな逸話が残っています。こちらがその和泉式部の祈願塔。

この逸話の真偽は不明ですが、生理や出産、死や疫病などが穢れとして厭われていた時代から、熊野三山にまつわる神々はそのような穢れを気にせず、誰でもウェルカムであるという姿勢をアピールするエピソードとなっています。

この辺りの来るものを拒まないおおらかさは、熊野古道の人気の源泉のひとつであったことは疑いようもないでしょう。

さて、伏拝王子を出る前に腹ごしらえ。本宮大社付近の食堂でテイクアウトした熊野・吉野に奈良時代から伝わる日本最古のファストフード「めはり寿司」です。

めはり寿司はおにぎりに高菜を巻いただけのシンプルな料理ですが、醤油ダレとパリッとした高菜の組み合わせがなんとも言えず美味。全国のコンビニのおにぎりコーナーにレギュラー商品として常設してほしいレベルです。

後編ではここから熊野本宮大社までを歩きます。

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