新たにNTTドコモが販売キャリアに加わり、9月20日に発売されたiPhone 5s/5c。当然さまざまな媒体がこぞって各社の比較を行うわけですが、MMD研究所の調査に不思議な点があります。詳細は以下から。
◆「iPhone 5s/5cのネットワークはソフトバンクが一番優れている」という結果に
全国主要都市のiPhone5c通信速度は、SoftBankが最速 | MMD研究所
スマートフォン・ソーシャルメディアの市場規模やユーザー動向をリサーチ・分析し、プロモーション活動の支援や企画を立案するマーケティング機関「MMD研究所」がiPhone 5s/5cの発売直後となる2013年9月21日~25日に行った通信速度比較調査によると、全国の主要な20都市125ヶ所でのiPhone 5c(対応する通信規格などはiPhone 5sと同一)の通信速度はソフトバンクが最速だったそうです。
各社の平均速度。ドコモ(下り18.21Mbps、上り5.47Mbps)が3位、au(下り22.00Mbps、上り10.70Mbps)は2位、ソフトバンク(下り26.45Mbps、上り11.59Mbps)で1位という結果に。
【JR山手線】スマートフォンユーザーを悩ますパケ詰まりの実態は? | MMD研究所
さらに9月24日~27日までの通勤・帰宅ラッシュ時(7:00~9:00、17:00~19:00)にJR山手線6駅(新宿・池袋・渋谷・東京・品川・新橋)でWEBページが完全に表示されるまでに30秒以上かかる「パケ詰まり」がどれだけ起きたかも10月15日に発表されており、こちらもソフトバンクが1位という結果に。
ページが表示される時間もソフトバンクが最も短くなりました。
なお、ページが表示されるまでに30秒以上を要したもの、計測できなかったものは計測失敗として除外されず、一律「30秒」としてカウント。今回WEBページ表示の計測実験に用いられたのは、ソフトバンクグループの「Yahoo!JAPAN」です。
◆最も重視されるべき基準は「通信速度」「パケ詰まり」でいいのか
LTEを展開する事業者の中で最も周波数に余裕のあるイー・モバイルのネットワークを併用しているため、特に都市部の人口密集地においてソフトバンクが優位になりやすいのも無理からぬ感がある今回のレポートですが、それでは本当にソフトバンクのネットワークが最も優れているのかというと、決してそうではありません。
・「各社ともLTEカバー率100%」という乱暴さ
iPhone 5s/5cが発売されるにあたって、最も大きなトピックスであったものが、国内の「プラチナバンドLTE」への対応。基地局1台あたりのカバーエリアが狭く、建物の中にも弱い2.1GHzおよび1.7GHzのLTEとは異なり、基地局1台あたりのカバーエリアが広く、建物の中でもつながりやすいのが特徴で、KDDIやNTTドコモがソフトバンクを大きくリードしています。
MMD研究所が6月に発表した「携帯キャリアの選択時に重視した点」というグラフ。「通信が安定している」「通信エリアが広い」「通信速度が速い」がトップ5に入っているため、「高速なLTEを安定して広いエリアで使える」というプラチナバンドLTEのメリットは同研究所自身も理解しているはずです。
しかしながら今回の速度比較はごくわずかながらも地下鉄の駅などが含まれていた4月の調査とは異なり、基本的に駅前、ビル前、公園などの開けた場所のみで実施。「LTEエリアは、20都市125箇所中125箇所で3キャリアともLTEカバー率100%」という、実もフタも無い注釈が行われているほか、パケ詰まり調査も「全ての調査端末がLTE(4G)を捕捉しているスポットを選定し、実施」とされています。
つまり上記の通信速度比較は「3社のLTEが入るエリア内での速度比較」であり、パケ詰まり比較はおそらく「エリア内でどれだけつながるか」ということを測ったものであるわけですが、どれだけエリア内で速度が出ようとつながろうと、そもそもLTEのエリアが狭ければどうしようもありません。
今回の調査のように、iPhone 5s/5cのプラチナバンドLTE対応で大きく変わることになった「LTEが入る場所」の過多について一切触れず、実利用シーンを一切無視して電波が入りやすい開けた場所のみの測定結果で優劣を断じるのはどうなのかというわけです。
・あえてiPhone 5を持ち出して優劣を語るマイナビニュースの不思議
MMD研究所が全国20都市125カ所で新iPhoneの速度調査、ソフトバンクが最速に - その理由について考えた | マイナビニュース
各社の新型iPhoneのパケ詰まりの実態は? MMD研究所の調査をもとに考えてみた | マイナビニュース
そして不思議なのが、これらの調査結果を受けたマイナビニュースの記事。MMD研究所による調査結果をそのまま取り上げた上で、iPhone 5s/5cの比較であるはずにもかかわらず、利用できる周波数帯の割り当てが少なく、KDDIが不利にならざるを得なかった前モデル「iPhone 5」をあえて持ち出して比較し、ソフトバンクを「iPhoneに適した整備をいち早く実施できる強みがある」と評しています。
またソフトバンクは昔からiPhoneを扱っているためノウハウが蓄積されており、iPhoneに適した整備をいち早く実施できる強みがある。9月6日にMMD研究所が行った「iPhone 5」に関する満足度調査でも全ての項目でライバルのKDDI(au)を上回る結果が出た。現状ではiPhoneを熟知しているキャリアと、数年前に取り扱いを開始したキャリア、また今回初めて参入したキャリアとの差が数字になって現れているのではないだろうか。
「iPhoneに適した整備」にLTEエリアの広さは含まれないのか……という気がしなくもありませんが、ドコモやKDDIのプラチナバンドLTE対応機種をなぜか外して各社の高速通信サービスを比較し、「ドコモとソフトバンクのLTEがカバーエリアトップ」としていたMM総研の調査レポートをそのまま記事化していたことを考えると、マイナビニュースにとって調査手法自体は特段注目するべきところではないということなのでしょうか。
◆比較調査の結果を見る時は調査手法などに要注目
ついにNTTドコモがiPhoneの発売に乗り出し、大手3社が端末のラインナップやサービス、エリアをめぐる争いが激化する中、消費者が選ぶ指標となるであろう調査会社による比較。
しかしながら「どのような部分をどのような観点で」比較しているのかは調査によって異なるため、安易に「○○が一番」と題された調査結果を鵜呑みにせず、手法や時期などをよく読んだ上で検討することは欠かせないと思われます。
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