植物の光合成の「欠陥」を修正し、農業の生産性を倍増させる研究が進行中



人口爆発と気候変動を人類が生き延びるためには何よりも食糧の確保が急務です。そのための切り札として、植物の光合成システムの欠陥を修正する試みが始まっています。詳細は以下から。

◆光合成の「欠陥」の修正へ
現在の酸素に満ちた地球環境を作り出した生命の神秘、それが植物の光合成です。あまりにも偉大であるため、それは天の配剤によって洗練され、完成されたシステムだと思われがちですが、実はそうではありません。

以前BUZZAP!でも紹介したように光合成には重大な欠陥があり、そのため植物が本来ならば糖と酸素を作るはずのエネルギーが無駄に消費されていました

国際研究プロジェクトRealizing Increased Photosynthetic Efficiency(RIPE)はビル&メリンダ・ゲイツ財団、イギリスの国際開発省、Foundation for Food and Agriculture Research(FFAR)の支援を受けて世界の食糧生産の持続可能な増加を目指し、農作物の光合成を効率化させる研究を実施しています。


以前の記事ではこのRIPEが「光呼吸」という光合成の中のいわば「悪玉プロセス」をショートカットすることで植物の成長を40%以上増幅させたことを報じましたが、それだけには留まりません。

◆光量の変化に即座に対応できない脆弱性を修正
RIPEでは光合成の全行程を170のプロセスに分けて、光合成によって太陽光からエネルギーが作られる化学的過程をモデリング。これらをシミュレーションすることで、どのような変化が生産性の最大化をもたらすのかを研究しています。

その中で先の光呼吸のショートカットに並んで大きなポイントが太陽光の吸収効率の改善です。

太陽光は植物の生長に必須ですが、強すぎる光は植物にダメージを与えます。そのため植物は直射日光に晒された際、太陽光の熱エネルギーを逃がすメカニズムを発展させています。

ですが、問題は太陽が雲に隠れて日陰になった時にもこのメカニズムはすぐには止まらないということ。そのため数分から数時間、光合成のプロセスは抑制されてしまいます。


RIPEの研究者らはこのメカニズムの変化をスピードアップさせる方法を発見。これによって光の強さが頻繁に変わる(晴れ時々曇りのような)天気でも効率良く光合成ができるようになりました。

◆人口爆発や気候変動に対応できる食物生産体制の構築へ
これらの研究成果はいずれも遺伝子操作によって達成されたもの。今後の研究でも光合成の欠陥を修正することで、いわば「スマート光合成」を実現するのがRIPEの目標です。

ですが一般的には忌避感も強い遺伝子操作を行い、現在の地球環境を作り出す要因となった光合成になぜメスを入れようとしているのでしょうか。

それは現在の人類と地球環境の直面する大きな問題に対応するため。今後100億人を超えて増え続ける人類を賄うためには現在よりも60%以上多く食料が必要となってくるとされています。


そのため国連がタンパク源として昆虫食を推奨したのはもう5年以上も前のこと。食糧不足は難民の発生や武力紛争の大きな原因となるため、安全保障上も極めて重要です。

加えて、気候変動による災害の多発や旱魃、猛暑などによる主要農産物の不作への懸念は今後増大することはあっても減ることはありません。


確実に増加する世界人口と気候変動による農業への打撃というリスクを回避するための手段は決してひとつだけで足りるものではありません。

二酸化炭素排出の減少や再生エネルギーへの転換、電気自動車の普及などが大きなトピックとなっていますが、光合成の欠陥の修正による農作物の生産性の倍増もその重要な一手となってきそうです。

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