「世界一貧しい」だけじゃない、ウルグアイのムヒカ大統領の素顔


2012年のリオ会議でのスピーチと昨年末の世界初の大麻合法化で一躍時の人となったウルグアイのムヒカ大統領。「世界一貧しい大統領」と呼ばれますが、それだけの人ではありませんでした。

ウルグアイ第40代大統領、78歳のホセ・ムヒカ大統領が最初に日本で大きく話題になったのは2012年に行われた国連持続可能な開発会議(リオ+20)でのスピーチ。

環境問題を話し合うこの国際会議でムヒカ大統領が述べたのは「根本的な問題は私たちが実行した社会モデルなのです。そして、改めて見直さなければならないのは私たちの生活スタイルだということ」「石器時代に戻れとは言っていません。マーケットをまたコントロールしなければならないと言っているのです。私の謙虚な考え方では、これは政治問題です」ということ。

さらにムヒカ大統領は現代のグローバリズム、消費主義社会に対して「現代に至っては、人類が作ったこの大きな勢力をコントロールしきれていません。逆に、人類がこの消費社会にコントロールされているのです」と語り、「残酷な競争で成り立つ消費主義社会で『みんなの世界を良くしていこう』というような共存共栄な議論はできるのでしょうか?」と問いかけます。

そして望ましい世界については「私たちは発展するために生まれてきているわけではありません。幸せになるためにこの地球にやってきたのです」「発展は幸福を阻害するものであってはいけないのです。発展は人類に幸福をもたらすものでなくてはなりません。愛情や人間関係、子どもを育てること、友達を持つこと、そして必要最低限のものを持つこと。これらをもたらすべきなのです」とし、古代ギリシャ哲学者やアイマラ族の言葉から「貧乏なひととは、少ししかものを持っていない人ではなく、無限の欲があり、いくらあっても満足しない人のことだ」と指摘します。

リオ会議でもっとも衝撃的なスピーチ:ムヒカ大統領のスピーチ (日本語版) Hana.bi

スピーチ動画(日本語訳付き)はこちらから。

Friendly president 心やさしい大統領 - YouTube

現在話題になっている「世界一貧しい大統領」としての姿は、まさにこうした哲学の率先した実行の現れだと言うことができるでしょう。

ムヒカ大統領は現在、大統領公邸には住まず、首都モンテビデオ郊外の質素な農場に妻と住み、菊を栽培。また運転手付きの公用車に乗る代わりに中古のフォルクスワーゲン・ゴルフを愛車とし、飛行機移動にはエコノミークラスを使います。さらには大統領報酬の90%程度を貧しい人々や零細企業向けのチャリティに寄付して、自身は月に1000ドル程度で生活しています。

仕事をするときの服装もノーネクタイにサンダルと、知らなければ大統領だとは絶対に思えないような出で立ちです。

こうしてみると非常に「素朴ないい人」のイメージですが、ホセ・ムヒカ大統領の人生は決して平坦なものではありませんでした。1935年、モンテビデオに貧しい移民の子として生まれ、5歳で父親が他界した後は家畜の世話や花売りなどで家計を助けていました。

その後、1960年代にはキューバ革命の影響を受けた武装極左都市ゲリラ組織ツパマロスに加入、誘拐や襲撃などのゲリラ活動に従事します。1969年にはモンテビデオ近郊の街バンドの短期間の占拠に参加して有罪判決を受け、その後も合わせて4回に渡り逮捕、投獄されています。

1972年に警官から6発の銃弾を浴びせられて再び逮捕された後は軍事刑務所に14年に渡って収監され、そのうち2年以上は井戸の底に閉じ込められていたとされています。

1985年に立憲民主制が復活した後、ツパマロスと共に左派政党「 Movement of Popular Participation」を結成。1994年の選挙で議員に初当選します。その後、2009年に大統領選挙に立候補し当選、2010年3月から大統領となりました。

ムヒカ大統領の政治的なポジションは中道左派で、同性婚と人工妊娠中絶手術の合法化を実施。さらには昨年末にBUZZAP!でも取り上げたように麻薬組織撲滅を目指し、医療用とレクリエーション用の大麻の使用、生産、売買を世界で初めて合法化しました。

ウルグアイが世界で始めて大麻の使用、生産、売買を合法化へ BUZZAP!(バザップ!)

こうした業績は西側諸国では大きく評価されており、エコノミスト誌は2013年の「Country of the year」にウルグアイを選び絶賛。

The Economist’s country of the year Earth’s got talent The Economist

今後の世界の向かうべき方向を考えるときのひとつの指針として、じっくりムヒカ大統領の言葉を噛み締めてみてはいかがでしょうか。

This immediately iconic photo of Uruguay’s president must be seen to be believed

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